映画「フェラーリ」では跳ね馬のエンブレムのついた深紅のフェラーリが甲高いエンジン音を轟かせながら猛スピードのフルスロットルで公道を駆け抜ける。
熱狂と隣り合わせの死を象徴するイタリア最大の公道レースとは「ミッレミリア」。
1957年、フィアットやフォードを敵に回し、倒産の危機に瀕していたフェラーリ社のオーナーで、かつてカーレーサーとしてF1界の帝王と呼ばれたエンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)はこのレースに全てをかけていた。
私生活でも共同経営者である妻(ペネロペ・クルス)との不和、愛人(シャイリーン・ウッドリー)との間にできた息子ピエロの認知問題で窮地に追い込まれていたエンツォにとって、イタリアを縦断する1千マイルのミッレミリアでの勝利は自らを解放する起死回生策だったのだ。
ハイライトで起こる大惨事に僕は息をのみ、その後、冒頭の村上龍さんの「(この凄さは)誰も制御できない」という言葉を思い出した。
モータースポーツの華と絶望。孤独、快楽、奈落に落ちる絶叫と、人生のすべてが凝縮されたストーリーを名匠マイケル・マンが演出。人生を描く重厚さに僕はフランシス・フォード・コッポラの「ゴッドファーザー」を想起した。
(文・延江 浩)
※AERAオンライン限定記事