「フェラーリ」
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中
© 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 配給:キノフィルムズ

 映画「フェラーリ」では跳ね馬のエンブレムのついた深紅のフェラーリが甲高いエンジン音を轟かせながら猛スピードのフルスロットルで公道を駆け抜ける。

 熱狂と隣り合わせの死を象徴するイタリア最大の公道レースとは「ミッレミリア」。

 1957年、フィアットやフォードを敵に回し、倒産の危機に瀕していたフェラーリ社のオーナーで、かつてカーレーサーとしてF1界の帝王と呼ばれたエンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)はこのレースに全てをかけていた。

 私生活でも共同経営者である妻(ペネロペ・クルス)との不和、愛人(シャイリーン・ウッドリー)との間にできた息子ピエロの認知問題で窮地に追い込まれていたエンツォにとって、イタリアを縦断する1千マイルのミッレミリアでの勝利は自らを解放する起死回生策だったのだ。

 ハイライトで起こる大惨事に僕は息をのみ、その後、冒頭の村上龍さんの「(この凄さは)誰も制御できない」という言葉を思い出した。

「フェラーリ」
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中
© 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 配給:キノフィルムズ

 モータースポーツの華と絶望。孤独、快楽、奈落に落ちる絶叫と、人生のすべてが凝縮されたストーリーを名匠マイケル・マンが演出。人生を描く重厚さに僕はフランシス・フォード・コッポラの「ゴッドファーザー」を想起した。

(文・延江 浩)

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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