皆さんの中には、デザインというのはセンスがある人に向けられた特別な世界だと思っている人も多いのではないでしょうか。そしてそのセンスとは天賦の才能であり、自分には縁遠いものだと感じている人もいるかもしれません。けれど、それはどうやら間違いのようです。「デザインは理論的なものであり、誰でも学ぶことができる」と断言するのは、これまで企業や行政などで1万人以上を教えた経験を持つ稲葉裕美さん。稲葉さんの著書『美大式 ビジネスパーソンのデザイン入門』は、デザインセンスに自信がない人に「そもそもデザインってなんなの?」という基本からわかりやすく解説し、「デザインが分からない人」から「デザインが分かる人」へと変えてくれる一冊です。
そもそも「センスがいい」とはどういうことでしょうか? 「センス」と聞くと独自性や個性が大きく関係すると思いがちですが、実は「センスがいい」とは「適切なものを選ぶ力」があることだと稲葉さんは記します。そしてそれは、インプットや経験の積み重ねによっておおいに磨くことができるのだそうです。
同書ではそのためのさまざまな方法が解説されています。たとえば、皆さんは会社の床や壁の色、材質、模様をはっきり思い出すことができるでしょうか? 普段から対象の存在を自分の思考や感情で受け止め、「本当に見ている」状態になることは、センスを磨く第一歩として有効だそうです。また、「言語化する」というのも一つの方法。「デザインは外国語と同じ」ととらえ、「緑色であれば、リラックス感や安心感。オレンジ色であれば、陽気さや明るさ」(同書より)といったふうに意味や印象を言葉にしていくと理解しやすいといいます。
さて、皆さんの中には普段の仕事でデザインが必要になる人もいることでしょう。モノづくりだけでなく、サービスをつくるときや経営戦略、ビジョンを考えるときなどにもデザインが必要な場面はとても多いですよね。けれど、ビジネスパーソンの皆さんであれば、自身がデザイナーになる必要はありません。稲葉さんが提案するのは「デザイン判断できるクリエイティブリーダーになる」(同書より)こと。デザインが持つ「視覚から情報を伝える」「感性的価値をつくる」「人間中心で考える」という役割をうまく取り入れながら、デザイナーに相談し、議論しながら判断していくことが望ましいです。アップルの創業者のスティーブ・ジョブズなどは、まさにそうしたデザイン判断力に優れたクリエイティブリーダーだったと言えるでしょう。
このように「経営にデザインの視点を取り入れて活かす方法」について書かれているのも同書の特長。発注の際のデザイナーとの上手なコミュニケーションの取り方や伝え方なども詳しく説明されています。
デザインとはあいまいでよく分からないものだと思っていた人にとって、デザインを理論的に言語化して解説する同書は目からウロコの一冊かもしれません。特に、ブランディングや新規企画、発注判断などでデザイン要素が不可欠なビジネスパーソンの皆さんには、おおいに参考になるのではないでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]