ひらい・みずき/2007年3月7日生まれ、愛知県刈谷市出身。4歳で水泳を始める。24年、パリ五輪代表選考会の女子100mバタフライで派遣標準記録を突破して優勝し、五輪代表に内定(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 パリ五輪で女子100mバタフライとメドレーリレーに出場する平井瑞希は、こころの安定剤を三つ持っている。

【写真】バタフライで泳ぐ平井選手

 コンマ何秒が勝負を左右する競泳は、最高のコンディションに近づける「ピーキング」が重要になる。

「毎日、常に良い状態でいられるように心がけているので、たぶん本番も絶好調で臨めると思います」

 時折首をかしげつつ、穏やかな表情でゆっくり話す17歳からは、五輪代表選考会で池江璃花子を破った豪快な泳ぎっぷりは想像できない。

 自信の根源は、12歳から始めた「五感への刺激」だ。指を引っ張ったり、膝をふるふると震わせたり、身体に変化を与えることで自分の身体により向き合っている。よくある調整法は筋肉を縦に伸ばすストレッチなどが一般的だが、筋肉を横に揺らすことで体の疲労を軽減できるという。今は応用し身体のよい変化から心を整えられるようになった。

「ケアした後にチェックすると、肩回りや股関節の可動域や呼吸の入り方が良くなっていることに気づきます。(この方法の)おかげで自分の体と向き合えるようになった」

 始めて5年経ち、コツがつかめてきたからか、昨年あたりから好不調の波がなくなった。

 二つめは徳を積む「トイレのスリッパそろえ」。試合会場に行った際はそろえているそうだ。始めた理由を尋ねると、「自分(の運)が良くなるっていうより、きれいなほうがみんなが使いやすいから」と答えた。レースにも気持ち良く臨める。些細【ルビ:さ・さい】なことの積み重ねが「自分は大丈夫」という自尊感情につながり、不安を払拭【ルビ:ふっ・しょく】できるのかもしれない。

 三つめの安定剤は、高校水泳部のマネージャーたちがつくってくれたお守りだ。

 高校入学から1年弱ほど、タイムが一向に伸びなかった。

「苦しかったです。なんでかな? どうして(タイムが)出ないのかな?って、ずっと考えてました」

 理由として頭に浮かんだのは「自分のレース課題に向き合えていないこと」だった。練習でうまくいったのに、本番でできない。つまり、力を出し切れていなかった。良い練習を積むだけではダメだと気づいた。それまでは、練習が足りないのではと考えすぎたり、練習でやっていないことをいきなりレースでやろうとしたり。どれも不安に駆られたゆえの失敗だった。

「レースで結果を出すために何をするべきか、にこだわるよう、考え方を転換した」

 泳ぎ込みや技術練習だけでなく、コンディショニングに気を配るように。その過程で、自分の体と向き合い、状態をうまく言語化できるようになった。言語化することは、コーチやトレーナーとの円滑なコミュニケーションにつながる。苦境を無駄にしなかった。

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