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 チャーリー(ブレンダン・フレイザー)は体重272キロの中年男性。最愛の恋人アランを亡くしてから過食に走り、いま健康に問題を抱えている。余命を悟った彼は8歳で別れたきりの娘のエリーを呼び寄せ、関係を修復したいと願うが──。連載「シネマ×SDGs」の47回目は、第95回米アカデミー賞主演男優賞を受賞した「ザ・ホエール」のダーレン監督に話を聞いた。

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 2012年にサミュエル(サム)・D・ハンターの戯曲「ザ・ホエール」を観て、「この作品の映画化権を手に入れなければ!」と思いました。さまざまな思考や哲学があり、なにより作者のサムが、人間というものに希望を持っている点に共鳴したんです。チャーリーの人物像には大学時代に肥満体形だったサム自身の経験が反映されています。すぐにサムと会い、彼自身が脚本を書いてくれることになりました。

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 チャーリーは恋人を亡くした悲しみを抱え、体形への劣等感を持つ孤独な人物です。疎遠だった娘への贖罪の気持ちも持っている。しかしそれは同時に自分自身が救済されたいという利己的な思いでもある。その矛盾した人物像がリアルだと思うのです。

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 多くの映画に登場するキャラクターは「いい奴か、悪い奴か」のどちらかです。しかし現実世界ではほとんどの人がその中間のグレーゾーンにいる。そのグレーな人間の内面を掘り下げることで、観客は想像を膨らませ、共感することができると私は思います。

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 チャーリー役を見つけるまでに10年かかりました。私の作品の役柄は役者に大変な努力を強いるものが多いんです。役柄とまったく違う背景を持った方が見事に演じてくれるケースもありますが、意識せず役者自身の私生活がオーバーラップして成立することもあります。ピッタリの役者を見つけるには、その役者の人生の「正しい時期」でなければいけないのです。ブレンダン・フレイザーは最高のタイミングで最高の演技をしてくれました。

ダーレン・アロノフスキー(監督)Darren Aronofsky/1969年、米ニューヨーク生まれ。「ブラック・スワン」(2010年)でナタリー・ポートマンを米アカデミー賞主演女優賞に導いた。4月7日から全国公開 (c) 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.
ダーレン・アロノフスキー(監督)Darren Aronofsky/1969年、米ニューヨーク生まれ。「ブラック・スワン」(2010年)でナタリー・ポートマンを米アカデミー賞主演女優賞に導いた。4月7日から全国公開 (c) 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

 本作には多くのテーマが詰まっています。父と娘の関係性、人間とはなにか……。そして最終的には希望を描きたいと私は常に思っているのです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年4月10日号