40人以上の側室を持ち、男子26人と女子27人、計53人もの子を儲けた家斉。なかでも寵愛した側室・お美代の方が生んだ娘・溶姫(やすひめ)は加賀前田家に嫁ぎますが、その際に建造された御守殿門が現在、東京大学の"シンボル"として知られる赤門です。
とかく子沢山ばかりがクローズアップされがちな家斉ですが、本書では、有力大名に多くの子女を嫁がせた背景には、家斉の父・治済(はるさだ)の戦略があったとしています。つまり、家斉の娘を嫁がせたり、息子を養子に出したりすることで、御三家・御三卿をはじめ、有力大名の血筋を、自身の血統で独占しようとしたのです。
しかし、将軍の子女を送り出す場合には、将軍家から多額の持参金を贈る慣例だったため、財政を圧迫、幕府の金庫は窮乏することになったのでした。
また、本書で見逃せないのが、幕末期に多大な存在感を示す雄藩・薩摩藩や、最後の将軍・慶喜を生んだ勤王の藩・水戸藩の動向。家斉の閨房(けいぼう)ではなく、政権下での政治経済にスポットを当て、徳川幕府最後の"黄金期"を描いた本書は、"幕末前史"としても楽しめる作品となっています。