ダイエット本は数あれど、ダイエットをするするといいながら、しない人の本は珍しい。しかもレポーターは夫、レポートの対象は妻。
 高橋秀実『やせれば美人』は〈妻はデブである。/結婚前はデブでなかったが、結婚してからデブになった〉と書いて憚らない夫による、汗(はあんまりかかないが)と涙(もあんまり出ないけど)と笑い(苦笑?)のノンフィクションだ。
〈やせれば美人〉はそもそも妻の口癖だった。学生時代は158センチ、48キロ。20代は50キロ台をキープするも、結婚5年目、30代で60キロを超え、70キロ台も超え……。〈私は努力しないで、やせたいのよ〉と真顔でいい、やってみたいダイエットは?と問う夫に〈朝、目が覚めたらやせてた、っていうやつ〉と答える妻はなかなかの傑物だ。
 しかし、夫はノンフィクション作家である。ダイエットとは何かを求めて、語源を調べ、関連書を読み、体験者を探して(もちろん妻といっしょに)話を聞き……。その態度はさながら求道者のごとし。ウエストとはどの部分か、9号・11号・13号というサイズの根拠は何か、食品のカロリーや基礎代謝量の科学的根拠は何か。体形の問題は山のような情報と数字に囲まれているのだった。
 それで何がわかったかというと、ダイエットとはたぶんに精神の問題であるってことですかね。
 ある女性は「ダイエットはロマンスである」といいきった。真偽のあやしい体験談でも〈女性たちはこれらを読んで擬似体験するんです。自分もこうなれるんじゃないかしらとか、自分がこうなったらどうかしらとか。要するに“夢”を見るんです〉。
 3年後、夫は衝撃の事実を知らされる。最大時に比べてなんと11キロ減。〈結局ダイエットしなくても、体重は減るものなんですね〉と感心する夫に妻はいった。〈ずっと、ダイエットしてたじゃないの!〉
 じつはこれ、10年前の本の復刻版。すると現在の妻は? 大丈夫。期待は裏切られません。

週刊朝日 2016年2月5日号

[AERA最新号はこちら]