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 世界のビジネスエリートの間では、いくら稼いでいる、どんな贅沢品を持っている、よりも尊敬されるのが「美食」の教養である。単に、高級な店に行けばいいわけではない。料理の背後にある歴史や国の文化、食材の知識、一流シェフを知っていることが最強のビジネスツールになる。そこで本連載では、『美食の教養』の著者であり、イェール大を卒業後、世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏に、食の世界が広がるエピソードを教えてもらう。

誰かと食べる意義、一人で食べる理由

 日本のみならず世界でも、美味しいものを食べることが趣味だったり、自分の生きがいになっているフーディーはどんどん増えてきています。そして、フーディーの中には、僕を含め、一人で食べに行く人も多い。

 ピエモンテの三つ星レストラン「ピアッツァ・ドゥオーモ(Piazza Duomo)」にはほぼ毎年食べに行っているのですが、2023年に行ったときは、フロアに8テーブルあるうち、3テーブルが一人の外国人客でした。僕はたまたま友人たちと行っていたのですが、サービスに聞くと、近年、料理を目的に旅する一人客が増えた、とのことで驚きました。

 お店からすると、商売の観点では、テーブルがきっちり埋まるのが理想です。つまり、2名席には2人、4名席には4人入ってくれるのがベスト。そして、お店を応援する立場からしたら、できればそういうぴったりの人数で伺いたい。

 食べ手としても、理想的には、自分と同じように食と向き合っている人と一緒に食べるのがベストかもしれません。同じものを食べて感想を伝え合うことによって、解像度が上がることもあるからです。一人だと言語化できなかったことが、誰かの言葉によって「確かにそうだ」と気づけることもある。音楽や演劇で、一緒に行って終わった後に「あれ、良かったね」といい合えれば、より楽しめるのと同じです。

 ただ、地方や海外だと、なかなかフルタイムの仕事をしている友人は休みを取れず、現実的に一緒に行くのは難しい。なので、申し訳ないと思いつつも、僕は一人で行くことが多いのが現実です。

一人客を歓迎する店は増えている?

 個人的には、高級店であればあるほど、一人でも気を使わずに楽しめると感じています。

 海外だと、料理を待っている間、「読みますか?」とサービススタッフが雑誌を置いていってくれたり、頻繁に話しかけてくれたりすることもあります。

 カップルで2人だけの世界に入っていたり、家族やグループで会話が盛り上がっていたりすると、あえてそれを遮ってまでも会話には入っていかない。

 その分、一人だったら話しかけやすいというのもあると思います。忙しそうにしているときに呼び止めるのは迷惑ですが、向こうから話しかけてくれる分においては、お店や料理についてどんどん聞いてみてください。

 また、海外で一人で食べに行っていると、レストラン関係者だと勘違いされることもあります。フランスに住んでいた頃は、大体他の店で修業している料理人の卵だと思われることが多かった。

 単に食べるのが好きだ、と答えても、「キッチンを見て行くか?」と誘ってくれたり、メニューには2人前からと書かれている料理でも、「特別にハーフポーションで出してあげるから大丈夫だよ」といってもらえたことも。これこそ、ホスピタリティだと思います。

 逆に予約を受けてくれたとしても、一人で行きづらいのは、回転重視のカジュアル店や人気店です。特に4人テーブルを一人で占有してしまうことになると、本当に申し訳ない気持ちになります。

 しかも僕はお酒が飲めないので、単価が上がらない。頑張って多めに注文することもありますが、行列ができるような店の場合は早く食べて次のお客さんに席を回さなきゃ、と思ってしまいます。

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