『イライラ、不安、無気力、トラウマ……負の感情がラクになる 「ポリヴェーガル理論」がやさしくわかる本』吉里 恒昭 日本実業出版社
この記事の写真をすべて見る

 私たちの人生につきない悩みの数々。マニュアル通りに解決できずに、「なぜ自分はうまくいかないのだろう?」と余計にストレスを溜めこんだりしていませんか? 無理に正しい解決策にとらわれずとも、捉え方を変えることで悩みが好転することがあるかもしれません。

 そのアプローチとして最近注目されているのが、1994年にステファン・ポージェス博士によって提唱された「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」。私たちの葛藤を「心の問題」ではなく「さまざまな体(神経)の反応が起こっている状態」と捉え、自律神経を整えることで悩みの解決に取り組もうという理論です。

 ただ、このポリヴェーガル理論そのものはとても難解なものだそうです。そこで、初心者でも理解でき、かつ役立てられるように、気分や身体の調子を表現する「ポリ語」を用いて解説したのが、吉里恒昭さんの著書『イライラ、不安、無気力、トラウマ......負の感情がラクになる 「ポリヴェーガル理論」がやさしくわかる本』です。

 自律神経系には交感神経と2つの副交感神経があり、同書では交感神経を赤、背側迷走神経複合体を青、腹側迷走神経複合体を緑に分け、キャラクター化して表しているのが大きな特徴。かわいらしいキャラとして可視化されることで、普段は目に見えない自律神経が身近な存在に感じられます。

 ここで各色の説明をすると、赤の交感神経は「動く・活動する」ときに働く神経。車で言えば「アクセル」のようなものだそうです。青の背側迷走神経複合体は「止まる・休む」ときに働く神経で、車でたとえると「ブレーキ」のようなもの。そして緑の腹側迷走神経複合体は「安全な場所にいる・安心だと感じられる」ときに働く神経で、アクセルとブレーキの調整をする「チューニング」のようなもの。「初心にかえる」「ホームグラウンド」「ニュートラル」といったイメージを持つ人もいるそうで、「安心できるもの(こと)とつながって何が大切なのかを気づかせてくれる」(同書より)というとても大切な役割を持っています。

 そして、同書で重視するのが「赤と青はそのままに。緑を活かした生活を」という考え方。私たちの気分や体は赤や青のときが多いものですが、意識的に緑の状態、もしくは赤と青がブレンドされた「緑赤」や「緑青」の状態になるようにしていくと、悩みや問題ごとを「いい加減」で捉えられるようになるそうです。

 そうなるための効果的な方法のひとつが「自分の体をよく知ること」。今の自分は何色なのかを観察し、「梅雨で大雨だからか青」「昨夜は早く眠れたから目覚めがいい。緑と赤がブレンドしたような清々しいやる気で目が覚めた」(同書より)といったように3色を使った「ポリ語」で日記をつけることが同書でおすすめされています。

 ほかにも緑を活性化させる方法として、マインドフルネスやセルフタッチ、顔の体操などについても詳しく紹介。自分の体を知って整えるための実践法を学ぶことができます。

 「自律神経を鍛えよう」とはよく言われるものの、具体的にどうすればよいかわからない人も多いことと思います。その理論とメソッドをわかりやすく教えてくれる同書は、体だけでなくメンタルヘルスの改善にもおおいに役立ってくれることでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]