“最強の鬼”を倒すための秘策
無惨は、時々眉をひそめながら「身の程も弁えず」「私の邪魔ばかり」「反吐が出る」と口にしたが、耀哉はそれを意に介さない。「君は…来ると…思っていた…必ず…」と、無惨の襲来の予見が的中して、少しうれしそうですらあった。
「君は私に…産屋敷一族に 酷く腹を立てていただろうから… 私だけは…君が…君自身が殺しに来ると…思っていた…」(産屋敷耀哉/16巻・137話)
耀哉は鬼殺隊の長として、そして産屋敷一族の当主として、自分自身を囮(おとり)にするという奇策に出た。しかしそれは、無惨の虚をつくため妻子を道連れにするという、あまりにも残酷な作戦だった。
なぜ妻子とともに自爆したのか?
耀哉は無惨を自邸まで誘い出し、すさまじい量の火薬で、無惨を自分と家族もろとも爆破させようとした。この凄惨なアイデアに、嫌悪感と非難を見せたのは、他でもない無惨だ。
「あの男は完全に常軌を逸している」(鬼舞辻無惨/16巻・137話)
産屋敷夫妻については、死の直前までの様子は確認できるものの、彼らが爆発で吹き飛ぶ姿、肉体が焼け落ちる様子は描かれなかった。一方で、熱風と爆風、火薬の中に仕込まれていた金属製の小さな武器を身に受けた無惨の傷は、生々しくリアルに描写された。一瞬とはいえ、産屋敷家の人々にも、同様の被害と痛みがもたらされたのだと、見ているわれわれにも容易に推察できる。
なぜ、ここまで過酷な方法を選んだのか……自分以外の命を巻き添えにする必要があったのか……そんな思いに、誰もがさいなまれる。鬼舞辻無惨は、死の直前の耀哉の“仏のような笑み”を思い出しながら、「あの腹黒」と吐き捨てた。