痛み止めを飲んだりケアを受けたり。やれることはすべてやった状態で迎えた男子高飛込予選。1ラウンド目の演技こそ良かったものの、2ラウンド目から明らかに様子がおかしい。それでも予選を12位で通過した玉井だったが、準決勝では腰の状態はピークを迎えていた。

 1ラウンド飛び、プールから上がるとしばらく動けずその場にしゃがみ込む。そのしゃがみ方も、上半身は前に倒さず、背中が真っすぐ伸びた状態。いわゆる蹲踞の状態である。そんな腰の状態であっても、準決勝を7位で通過して決勝進出を決め、この大会でのパリ五輪の出場権を獲得した。

 準決勝が終わった後、玉井は人目をはばからず涙を流した。五輪を決めたうれしさもあるが、腰の痛み、その状態で6ラウンドを飛びきった安堵感。様々な感情が入り交じり、最初は辛抱していた玉井だったが、尊敬する大先輩である寺内健の姿が目に入った瞬間、感情があふれ出して止まらなかった。

 翌日の決勝は、1ラウンドは挑戦してみたものの、これ以上の無理は今後に響く、ということで途中棄権。「応援してくれた皆さんには申し訳ない。でも、必ず腰を治して、パリ五輪ではメダルを獲得できるように頑張ります」とコメントを寄せた。

 あれから約1年。「もちろんケアはしていますけど、腰の状態は良いです。調子も上がってきました」と笑顔を見せる。福岡での世界水泳選手権以後、五輪の出場権を持っていることも幸いし、焦ることなく3カ月近くはゆっくりと身体を休めて治療に専念。それこそ2019年、中学1年生で日本のトップに立って以来、一度も休むことなく走り続けてきた。マスコミからの注目度も高く、練習に取材にと忙しい日々を送ってきた玉井にとって、練習したいというもどかしさはあっただろうが、勝負をかけたい五輪前に、メンタル面をリフレッシュできたことはプラスに働いた。その成果は、5月のフレンチダイビングオープンでの優勝という結果が表している。

 ただし、玉井が目標に掲げる世界の頂点に至るまでの道のりは、決して楽観できるものではない。フレンチダイビングオープンで優勝したときの玉井の得点は、500.55ポイント。東京五輪で曹縁が優勝したときの得点は、582.35である。ちなみに、東京五輪銅メダルのトム・デイリー(イギリス)の得点も548.25。500.55は、東京五輪に当てはめれば5位相当である。そう考えれば、メダル獲得への道はまだまだ険しいことが分かるはずだ。

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玉井がメダルを獲得するためのカギは…