教える大学院生は50カ国以上からの留学生。女性も多く、多様性あふれるキャンパスだ。その学生たちに、この高校でもらった言葉を贈ってあげたら、どう受け取るだろうか(写真:狩野喜彦)

自宅近くの図書館で児童文学者の薦めで母子で同じ本を読む

 企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。

 小学校から歩いて約10分、県立図書館があったところへも寄った。いまは県立博物館になったが、建物は変わっていない。当時、図書館の館長は童話『月の輪グマ』などを書いた児童文学者の椋鳩十氏。小学校1年生のときに出会った。

 椋館長は「母と子の20分間読書」と名付け、親と一緒に同じ本を読むことを薦めた。親が子に何かを教えるためとかではなく、共通の話題を持ち、本を読む習慣をつけることを重視したのだろう。小学校時代半ばまで自宅にテレビはなく、本は想像力を育ててくれた。

『源流Again』のハイライトは、市内にある県立鶴丸高校だ。入学は69年4月で、終戦からまだ四半世紀。先生には「戦争の傷」を持つ人もいて、その深みが、記憶から消えない。そこで次々に出会った言葉は、何物にも代え難い。

みんなに大事にされあの言葉の金文字が母校の中庭にあった

「For Others」の言葉を教え、「いつでも他人から頼りにされ、助けることができるように自分を磨いておきなさい」と繰り返した校長。40代後半から政策研究大学院大学の教授職を2度離れ、内閣府の官僚と担当大臣になって国の経済政策の方向を決める経済財政諮問会議(議長・首相)の運営へ参画した。そのとき、会議に諮る案件は「それは社会にとって必要な政策か」の基準で通した。そんなパブリックな姿勢を貫く道は、あの言葉と重なる。

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