AERAの連載「2024パリへの道」では、今夏開催されるパリ五輪・パラリンピックでの活躍が期待される各競技のアスリートが登場。これまでの競技人生や、パリ大会へ向けた思いを語ります。
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勢いよく右腕を振り切って放たれたやりが大きな放物線を描く。ビッグスローが決まると、北口榛花は両手を突き上げ、ぴょんぴょん跳びはねて喜びを爆発させた。
ストレートな感情表現が印象的で、人気も急上昇。今年3月に広告会社が発表した「アスリートイメージ評価調査」では総合ランキングで米大リーグ・ドジャースの大谷翔平に次ぐ2位、「親しみやすい」アスリートでは1位に輝いた。野球やバスケットボールならともかく、やり投げのようなマイナー種目では異例だ。北口自身、街中などでも気づかれることが多くなったという。
「笑い声が耳に残って覚えてくださっていて、笑うとバレるので、一緒にいるみんなに『笑うな』って言われます」
そう言ってふふふと笑った。
人気だけでなく実力も世界トップだ。身長179センチの長身とやわらかな体を生かしたしなやかさを武器に、昨年8月の世界陸上では最終6投目で66m73をマークして逆転優勝。女子フィールド種目では日本人初の金メダル獲得となり、パリ五輪の日本代表にも内定した。今シーズンも、4月下旬から試合に出場し始め、4戦連続で優勝を果たした。
自己ベストは世界最高峰の大会「ダイヤモンドリーグ」で昨年9月に出した67m38。
「ぶっちゃけていうと、私、練習では55m飛べばまあまあいいラインなんですよ。で、本番では65mとか投げるタイプなんで。やってる自分も、予想できないで試合に臨んで、投げてやっとわかることが多いので……」
試合と練習の記録の差がだいぶ大きいが、試合で距離が伸びるのは、単に「勝負強いから」ではないようだ。
「練習で飛ばないのはめちゃくちゃ考えて投げているからだと思います。気をつけたい所が10個あったら、練習では10個全部考えながら投げるけど、試合ではそれを2、3個に減らす。その分、迷いなく全力で投げられるんです」