西田亮介さん(にしだ・りょうすけ)/1983年生まれ。日本大学危機管理学部教授。専門は、公共政策の社会学。著書に『コロナ危機の社会学』など

「日本のウェブメディアは、無料で記事を読んでもらいリーチ(読者)を広げPV(閲覧数)を伸ばし、広告を見てもらい収益を上げてきました。しかし近年は広告単価が伸び悩み、しかもYahooやGoogleといった検索エンジンやニュースアグリゲーターでニュースを見る人の割合は8割に達します」

 もはや広告を見てもらい収益化する「無料広告モデル一本足打法」は崩れ始めている。サイトへのエンゲージメント(1読者あたりの訪問頻度)を増やしながら、サブスクリプション(定額課金)などによって収益を上げていくフェーズに移る必要があると、田島さんは言う。

「そのためには、継続的にサイトを訪れる習慣をつけてもらわなければいけません。例えば、占いのように毎日更新されるものであれば、明日も見に行かなければという気持ちが働きます」

紙はプレシャスになる

 文春オンラインは、「文春読書オンライン」という自社の書籍を紹介するコーナーを同オンラインの中につくり、書籍の売り上げを伸ばすことに成功した。

 こうした、すでにあるウェブメディアを手段に事業を展開することも有効だと田島さん。

「ウェブメディアは、プロモーションをするには非常に強い武器です。ウェブメディアを入り口に、他の事業とシームレスに繋がり、成長するモデルをつくることも必要になってきます」

 ウェブメディア運営で知られる「メディアジーン」(東京)代表取締役CEOの今田素子さんは、「メディアはブランド」だと話す。そのブランドを使い新しいビジネスを見つけていくことに挑戦し、実績を積み重ねていくことでしかウェブメディアは生き残ることはできないだろう、と。

「そこで必要なのが、いかに信頼できる情報をきちんと出し、読者と深く繋がっていけるかです。ウェブメディアには詐欺的なことはもちろん、詐欺とは思わずコンテンツを勝手に使ったり著作権を無視してリライトすることも横行しています。こうした詐欺メディアもちゃんとしたメディアも、1PVは1PVです。元々パブリッシャー(出版社)であった私たちにとって、それを正していく自浄作用を働かせることは重要です」

 その上で「人の人生を変えるようなメディアをつくり出すべき」と言う。

「紙の時代は終わるのではなく、紙はプレシャスなものになっていくと思います。紙も含めたメディアは、人々の生活を豊かにする存在だと信じています。そのためにも、生活を豊かにし、その人の人生にいい影響を与える価値のある情報を発信していく。それが、ブランドをつくるということです」(今田さん)

 ウェブメディアが登場して30年近く。その「進化」がいま問われている。(編集部・野村昌二)

AERA 2024年6月24日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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