「私は成長を感じなくなると、自信がなくなったり、焦りが生まれてくることがわかったんです。だから、これはインプットが必要だな、と」

 50歳で小西は早稲田大学大学院に入学。テーマに選んだのはジェンダーと政治。討論番組でも、やって来る政治家や専門家は男性ばかりで、小西だけが女性ということが多々あった。政治の世界での男女比もいびつ。こうした問題を体系的に学びたい、ジャーナリズムとしての報道の在り方を考えたいと思った。忙しい合間を縫って講義に通った。長い時間をかけて議論された研究者の深い知見に改めて驚いた。目の前のニュースばかり追いかけてきた視野が一気に広がった。仕事以外の時間のほぼすべてを勉強にあてた。休日もなかった。入学前、ある年上の女性に投げられた言葉が忘れられなかった。「大学院? プロフィールの1行になるだけで何もならないことを今さらやってどうするの」。腹が立った。学びこそが人生を拓く。父の教えを思い出した。

「自分の可能性は誰かに決めつけられるものじゃないですよね。そこに蓋(ふた)をしたくなかった」

 大学時代に出会った1冊の本がある。千葉敦子の『若いあなたへ!』。あなたは何にだってなれる。忘れられない言葉が詰まっていた。

「もう十分じゃない。どうしてまたチャレンジするの。そんな声が聞こえてくることがあります。でも、私にはぜんぜん十分じゃないんです。だって、大事なことは今だから。人の輝きって、今、何をしているかにあると思うから」

 年齢なんて単なる数字でしかない。それよりも今、一歩を踏み出したとき、目の前に広がる景色を大事にしたい。そこにこそ、人生はあるから。

(文中敬称略)(文・上阪徹)

AERA 2024年6月24日号

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