クマによる人身被害は、昨年度、過去最多の219人になった。今年度も全国各地で被害が相次いでいる。国や自治体がもっと適切に、クマに遭遇したらとるべき行動をマニュアル化していたら、「被害を軽減できた」と専門家は訴える。懸念するのは、攻撃的な「アーバンベア」の増加だ。
【写真】クマの攻撃により破壊された頭部のCT画像と、山中のクマの様子
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クマはヒトの頭を狙う
昨年度、全国で最もクマによる人身被害が多かったのは、秋田県だ。死者こそ出なかったものの、70人が負傷した。
クマに襲われると、首から上を損傷することが非常に多い。「命に別条はない」と報道されても、顔貌が大きく変わるほどに重大なけがであることが少なくない。
昨年、クマに襲われて秋田大学医学部付属病院に搬送された重傷者20人中18人が顔を負傷していた。このうち失明は3人、顔面骨折は9人。秋田赤十字病院に2009年から昨年10月までに搬送されて入院したケースでは、31人のうち29人が頭や首を負傷していた。
NPO日本ツキノワグマ研究所の米田一彦所長は、クマの生息する府県で発生した事故を明治中期の1897年から2016年まで調査した(狩猟中の事故などを除く)。全1993件、2255人の被害者の損傷部位の割合は、頭部44%、手腕部25%、足部12%。昨年度に限っても、頭部44%、手腕部34%、足部7%と、過去の傾向と大きな違いはなく、クマは「主に人の頭を攻撃するとみてよい」という。
「死んだふり」の姿勢は有効
米田さんは10年ほど前から、こう訴え続けてきた。
「クマに遭遇した場合、立った状態で攻撃を受けるのが最も危険です。ただちにうつぶせになり、両腕で頭部を覆ってください。致命的なダメージを防ぐことが重要なのです」
この体勢は、いわゆる「死んだふり」とほぼ同じで、クマに襲われた際の最後の防御手段として、古くから山間部の住民が行ってきたものだという。3年前に改訂された環境省の「クマ類の出没対応マニュアル」にも、うつぶせになって頭部を守れ、と記述されるようになった。
だが、このマニュアルには「まだ改善の余地がある」と、米田さんは指摘する。特に問題視するのは、最近増加する人里での人身被害に対応できていないことだ。