人生100年時代となり昔に比べて平均寿命もずいぶんと延びました。しかし中年ともなれば着々と歩み寄る「老い」から逃れられないのは自然の摂理なのかもしれません。なんでしょう、この気力だけではもう体も心も追いついていかない感じ。40代半ばの私自身、今年に入って大きく体調を崩したこともあり、しみじみとそれを実感しています。そして今回紹介する書籍『元気じゃないけど、悪くない』の著者・青山ゆみこさんもその一人。50歳を目前に、「心と身体のどちらも『ぽきん』と折れた。そんな自分をどう手当てしたらいいのかわからず、途方に暮れる日々」(同書より)だったといいます。同書は青山さんの約3年間の「心と身体のリハビリ」について綴ったエッセイです。
2020年12月、体力的にもメンタル的にも負荷の高い仕事を終えた後、人生で初めて心が緊急事態になったという青山さん。突然、「躁」っぽい状態となり、ぎゅんぎゅん空回りする思考を止めるには死んで強制終了するしかないと考え、「楽になりたい。苦しいからこそ希望を見出して、人は死を望むのだな」(同書より)という感覚を味わったといいます。そしてその日以来、青山さんは気分的にも身体的にも自分がぐらぐらと揺れているような感覚を常に抱くことに......。さらに、数年前に体験した母や愛猫の看取りが生々しく蘇り、動悸がするようになり、精神科の先生からは「それはパニック発作かもしれない」と告げられます。めまいに不安障害、お酒との付き合い方など問題を抱えた青山さんが再生を目指す日々が始まりました。
最初は「朝起きる」「顔を洗う」といった日常生活ですら、リハビリの第一歩。次は本を読んで今の自分に必要な知識や情報を収集したり、仕事部屋として新しく部屋を借りてみたり、はたまた気心知れた人々と「オープンダイアローグ」というメンタルケアの手法を試してみたり、遠方で開催されるイベントへと出かけてみたり。そうした日々の積み重ねにより、青山さんの中でほんの少しずつ、だんだんと再び生きることへの自信が生まれていきます。そうして3年後にはこう思えるようになりました。
「無傷ではないし、今後は古傷が疼くことがあるのかもしれない。全快しゃきしゃきの元気いっぱいでもない。でも『回復』とは異なるカタチで、わたしは自分の人生を新たに立ち上げて生きている。そういうの、全く悪くないと思うのだ」(同書より)
全快を目指す必要はなく、「これなら生きていてもいいかも」(同書より)と思える状態でいいのだ。青山さんの経験からは、そんな思いが伝わってきます。
「ミドルエイジクライシス(中年の危機)」と呼ばれる40代・50代は、日々の不調とどう向き合い、付き合っていくかという大きな課題を突き付けられます。同書はそうした人々にとって大きなヒントが得られる一冊。同世代が共感を抱けるノンフィンクションとして、心身をケアするための実践書として、皆さんに優しく寄り添ってくれることでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]