今年3月にエヌビディアが発表した次世代GPU「ブラックウェル」チップは価格が3万~4万ドルと高額だ。現行のGPU「H100」でも3万ドルはする。それをメタ(旧フェイスブック)やアルファベット傘下のグーグル、アマゾンやマイクロソフトなどが大量購入して巨大なデータセンターを構築し、GPUを搭載したサーバーのクラウドサービスを多くの企業に提供しているわけだ。
多くの企業はアマゾンなどに「賃料」を払ってクラウドを必要な分だけ借り、エヌビディアのGPUの高速データ処理能力に頼ってAI開発を行っている。
そんな中、エヌビディアのGPUを大量買いして自前でスーパーコンピューターシステムを作ろうという動きもでてきた。その例がイーロン・マスク氏だ。
マスク氏は、エヌビディアの新しいブラックウェルGPUを来夏までに30万ユニット分購入したい意向をXで示している。単純計算でも90億ドルは必要だ。
ライバルたちが「顧客」
マスク氏が率いるテスラは自社開発した半導体とソフトウェアを搭載したEV「モデル3」などを販売するが、彼はxAIという新会社を設立し、エヌビディアのチップをそこでも活用する予定だ。
日本の大手企業からも、エヌビディアの技術は引く手あまたで、3月には日立製作所が協業を発表した。
実はエヌビディアの顧客であるアマゾンも、自社でAI用のGPUを開発している。だが「その性能はエヌビディアに及ばない」とジノ氏。「自社開発のGPUを安価で売ったとしても、たとえば競争相手のグーグルがこれまで同様エヌビディアのチップを使って客に超高速処理できるクラウドを提供し続ける限り、アマゾンはエヌビディアのGPUを買い続けるしかない。クラウドの質を維持しなければ顧客を失ってしまうわけだから」
つまりエヌビディアが開発で先を行く限り同社のGPUを買い続けなければならないわけだ。
GPUの設計だけでなく、GPUに付随するソフトウェアの開発でも秀でているエヌビディア。だがアマゾンもグーグルもソフトウェア開発なら得意技で強いはずでは?
「ソフトウェアの種類が全く違う上、エヌビディアはチップ一筋の研究開発に20年以上を費やしてきた。このギャップは簡単に埋まらない」とジノ氏。
またアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)やインテルなどの半導体大手の場合はパソコン全体を制御するCPUには強いが、生成AIに必須なディープラーニングを可能にし、画像処理で培った膨大なデータを瞬時に処理できる能力を持つGPU分野ではエヌビディアが先を行く。「今からどんなに開発してもAMDもインテルも、追いつけない」とジノ氏。
エヌビディアのファン氏は、もしライバル企業が無料でGPUを提供したと仮定しても、データセンターのオペレーションコストでみると、エヌビディアのGPUが処理能力比やコスパで勝り結局安上がりだと発言。(ジャーナリスト・長野美穂=ロサンゼルス)
※AERA 2024年6月17日号より抜粋