ヒリヒリした必死さが突き動かす

 僕自身、精神的に病んだ時期は実はありましたし、「生きていてもしょうがない」と思ったこともありました。でも、心身ともにボロボロになって「自分には何もない」と思った時も、それでも「生きたい」と思う自分がいた。いつも僕を突き動かすのは、ヒリヒリした必死さなんです。怖さは感じますが、燃えているのを感じる瞬間でもある。

 昨日、稽古後にたまたま盟友の「劇団鹿殺し」の丸尾丸一郎と食事をしたんです。彼は、「自分の中でヒリヒリする感覚がなくなってきたので、松岡さんに会わなきゃと思った」と言ってくれました。

作品が大切なものを指し示す

──自身のそうした感覚が薄れた場合は、どうするのだろうか。

松岡 昔は、知らないところに旅に出るという無茶なことをしていましたが、今はやりたいと思っていたことを思い出します。当時やりたかった理由がはっきりとわからなくても1回そこに行ってみる。SOPHIAは7月から29年前のデビュー直後に行ったツアーと同等のキャパでのライブハウスツアーを行いますが、それもそういう意図です。

 やりたかったことをやれば、思い出せるものがあるんじゃないか。両手がいっぱいになって、持てなくなって置いていったものがあったとしたら、その時なにを思ってそれを置いたのか。

 経験を重ね、人間として、表現者として、昔と比べてもし懐が深くなっているのだとしたら、その時置いてきたものを取りに行くことができるし、それによって大切なものを確認できると思っています。僕はその置いてきたものをずっと歌にしているから、当時の自分の作品が大切なものを指し示してくれ、時に過去の作品が導いてもくれるんです。

(構成 ライター 小松香里)

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