男装の麗人オスカルとアントワネットが主人公だが、テレジアもしばしば登場する。だから2002年、出版されたばかりの『秘密の往復書簡』を書店で見つけ即、購入。熟読した。
ちなみに本のカバーに刷られたテレジアの肖像画は、池田の描くテレジアそのものだ。だから「あ、ベルばらだ」と手に取った。池田も参考にしたであろう史料を池田作品で予習して読んだ形だが、すぐに引き込まれた。
テレジアは、末娘を何とか立派な王太子妃(結婚4年目からは王妃)にしようとする。その必死な思い、テレジアの卓見、どちらもすごい迫力なのだ。
嫁いで半年後、テレジアはこう書く。
<神様はあなたに、誰もが愛さずにはいられないほどの優美な姿とやさしい心、そして温和な性格をあたえてくださいました。これは神様の贈り物であり、したがってあなたは、(略)あなた自身の幸せとあなたと関わりをもつすべての人の幸せのために、十分に心してこの贈り物を守り通さなければならないのです>(1770年11月1日)
だが、幼いアントワネットはすぐに叔母たちに取り込まれ、カード遊びと乗馬に興ずるようになる。そして夫との関係がうまくいかないこともあり、次第に贅沢(ぜいたく)へと走り出す。
これをテレジアは、何度も注意する。アントワネットが王妃となった2年後には、「こうした浪費癖は私の目に余るものです」と強い調子で諫(いさ)める。そして、こう娘を諭す。
<このような不謹慎な行為によって、せっかく最初からあなたのものになっていた声望を台なしにしないでください>(1776年10月1日)
あなたは最初から声望を得ているのだ、だから飾り立てる必要などない。テレジアはそう言っている。私はこれで、テレジアの教えを「あなたはあなたでいるだけで尊い」と理解した。
テレジアの考え方を別の角度から語ってくれたのが、精神科医の斎藤環さんだ。皇后になって以降の雅子さまの好調ぶりについて、本誌10月28日号で解説してもらった。