TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は橋口亮輔監督の映画「お母さんが一緒」について。

【写真】うつろな表情の江口のりこ

左から次女役の内田慈、長女役の江口のりこ、三女役の古川琴音、三女の恋人役の青山フォール勝ち(ネルソンズ)
「お母さんが一緒」原作・脚本:ペヤンヌマキ 監督・脚色:橋口亮輔 7月12日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
©2024松竹ブロードキャスティング
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 僕が小学生のときだ。夏休みになると決まって伯母たちが岡山・津山から上京してきた。

 父の姉さんたちである。

 お土産をどっさり抱えて「久しぶり~」と挨拶もそこそこに、「あ、始まっちゃったわ」と僕の母はくわばらくわばらと居間から消えてしまう。

「始まっちゃった」というのは小姑たちの諍(いさか)い。八十半ばを過ぎた母のケアを巡って、何もしないあんたが悪い、いやいや私だけのせいじゃないなどと口角泡を飛ばす様は、今思えば向田邦子の「阿修羅のごとく」における四姉妹の口喧嘩そのものだった。

 耳を塞ぎたくなるほど壮絶だった。でも、恒例の騒動が終わると、一転仲良く、座布団を舞台に「こいこい!」と花札が始まる。いつの間にか母は戻って来て、一緒に盛り上がっていた。

 父は姉たちの喧嘩にも花札にも仲間に入れてもらえなかった。両親に可愛がられたお坊ちゃんで、一人だけ旧制のナンバースクールに進学した末っ子は特別扱いで相手にされなかった。

 劇作家で演出家のペヤンヌマキの舞台(下北沢ザ・スズナリ)をもとにした、橋口亮輔監督のホームドラマ「お母さんが一緒」を観て、そんな思い出が蘇った。

左から長女役の江口のりこ、三女役の古川琴音、次女役の内田慈
「お母さんが一緒」©2024松竹ブロードキャスティング
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互いを罵倒し合う修羅場に