北毛久呂保の“一般的”な、こんにゃく
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 「こんにゃくという独特の食感と風味をもつ伝統食材を海外で広げたい」

 さかのぼること6年前、群馬県昭和村のこんにゃくメーカー「北毛久呂保(くろほ)」社長の兵藤武志さんは県内でもいち早く、こんにゃくを携えて海外に向かっていた。

●「スライム?」「食べられるの?」 外国人からは“謎の物体”扱い

 こんにゃく初デビューは、昭和村商工会が参加したドバイの展示会だった。しかし、結果は「惨敗。さんざんでした」と兵藤さん。

「食べた瞬間、口を押さえて言うんです」と兵藤さんが続ける。

「スライミー」

 スライムみたいで、ぷよぷよして気持ち悪い。まったく、こんにゃくは口に合わなかったのだ。そればかりか兵藤さんは衝撃の事実を突き付けられた。

「こんにゃくが『食べもの』だと理解されなかったんです」

 こんにゃくを見た外国人が、まず言うのは「なんだ、これは!!」。次に言われるのが「食べられるのか?」。こんにゃくは、もはや「謎の物体扱い」だったのだ。

「もっと海外でも認知されていると思っていました…」と兵藤さん。ゆえに「説明が大変」。

「とにかく『植物からできている』ってところから説明しないといけないんですよ」

 じつは、世界中でこんにゃくを食べている国民は、ほぼ日本人ぐらい。海外でも、こんにゃくいもは生産されているが、それは、ほぼ増粘剤やペットフードとしてのニーズである。こんにゃくのことは、ほぼ世界中の誰もが知らなかったのである。
 
 その後ロシアの商談会にも行った兵藤さん。やはり「食べもの扱いされないうえに、大不評」だった。

●中国人留学生も絶句! こんにゃくの食感は「ありえない」

 兵藤さんがショックを受けて帰ってきたころ、群馬県としても海外輸出戦略の機運が高まっていた。

 国内でのこんにゃく消費量低下に加えて、近年、LDC諸国の無枠無税措置によって、ミャンマー、ラオスなどからの安価なこんにゃくいもの輸入が急増し、農業者や製粉業者にとって大きな脅威となっていたのだ。

 県として、国際競争力を強化するべく、まず、生産者への効率的な機械化体系の導入や大規模化により、生産コストを10~15%低減する目標を掲げた。

 さらに2012年には、海外への販路拡大と需要の増加を図るべく、海外輸出に必要な方策を研究するために、県、生産者、製粉業者、加工業者などで構成された「群馬県こんにゃく海外戦略研究会」を設置した。

 まず研究会が行ったのは、こんにゃくを食べる習慣がない海外で、どのようなこんにゃく料理が評価されるのかを調べることだった。そこで、主に中国、東南アジアからの県内在住の海外留学生を対象とした「嗜好調査」を実施した。

 会場にずらりと並んだ、こんにゃく料理を前に、とまどう留学生たち。研究会員として参加していた兵頭さんが振り返る。

「中国からの留学生の女の子が、『これはいったいなに?』と怪訝な顔でしょうゆ煮の玉こんにゃくをジーッと見つめてましてね。食べるか食べないか迷ったあげくに、しょうがないって意を決したような顔で食べてました」

 そこで、またしても兵藤さんは衝撃的な場面に遭遇する。

「すぐに吐き出しちゃいました」

 日本で一般的に食べられているみそおでん、刺身こんにゃく、玉こんにゃくが留学生たちにまったくウケなかったのだ。「こんにゃく、中国から日本にやってきた食べものなんですけどね……」と兵藤さんは話すが、中国でもこんにゃくを食べるのは南部のごくごく一部。ほとんど食べる習慣が残っていないのだ。

 ひどい目(?)にあった女子留学生いわく「プリプリして、まるくて、黒くて、しょうゆで煮た妙な味、気持ち悪いにおい、しかも温かい。こんなヘンなものは生まれてこのかた食べたことがない!」のがこんにゃく。

「とにかく食感は、外国の方には絶不評です」と群馬県農政部ぐんまブランド推進課の大井圭一さんが語る。

「どうも、世界的に、こんにゃくみたいな食感の食べものは存在しないらしいんですよ」

 わたしたち日本人が求めるあの「弾力」がありえなくて、さらには「それが温かい」が恐ろしくありえないことらしい。言われてみれば……類するものが思いつかない。

「においもダメみたいです。生臭く感じて、今度は魚だと思われがちなんです」と大井さん。しかし、こんにゃく麺はことのほか好評を博した。

「麺は海外でも一般的なものですし、これならプリプリも新たな食感として受け入れられるようです。こんにゃくをそのまんま持って行ってもなんだこれ、ってなりますけどね」

 大井さんが続ける。

「麺なら『食べもの』に見えますし」

 こんにゃくは、こんにゃくであることがどうのこうのという前にまずは世界中で「食べもの」として認識されるビジュアルが必要だったのだ。

●ついに大ウケ、大人気に! 「麺」「米」「タピオカ」など代替がカギ

 研究会では、嗜好調査の結果を踏まえて海外向け商品を開発した。なにせ、群馬が誇るこんにゃく「七変化」の技術力。見た目やにおい、色などの海外で「ウケない」とおぼしき要素をクリアして、嗜好に合ったものをと完成したのが「こんにゃく麺やきそば」「こんにゃく米チャーハン」「タピオカ風こんにゃくミルクティー」。海外でも一般的な料理の一部をこんにゃくで代替する方法がいちばん好まれやすいと考えたのだ。

 これらの商品を携えて、2013年、研究会の構成員は「香港フードエキスポ」に出展した。やはり、こんにゃくは「現地でまったく知られていない」状況にもかかわらず、工夫を重ねた「こんにゃく麺焼きそば」が大人気。

「やっと大ウケしました」(兵藤さん)

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