この“一冊”は、本のサブタイトルにも、また帯のキャッチにも「気づき」という言葉を使っている。それが何を意味するのか、まずはそこから聞いてほしい。ずばり、ここでの“気づき”には、「お金をかけない」という意味をこめているのだ。たとえば、「人の悪口を言うと老ける」みたいな気づき。「老けない人が太らない」という気づき……。つまり“キレイになること”、また“若くいること”は、本来が驚くほど簡単である事実に“気づくための一冊”であり、だからそれほどお金がかからないことにも、“気づいてほしい一冊”となったのだ。

 女性誌の編集者時代に、いわゆる“美容ページ”の担当になって以来、ずっと“美容”というものに関わってきた。でも正直に言ってしまうと、“担当”になっていなかったなら、化粧品というもの自体に強い関心を持つことは一生涯なかったかもしれない。

 そうは言っても、“すっぴん”で外出できるタイプでもなく、女としてちゃんと打算的なタイプでもあったと思う。言うならば“美容”は歯を磨くくらいに当たり前のことで、それ以上夢中になるものでも、ましてや人生かけてしまうようなものでもないと、考えているような……。

 つまり、いわゆる“コスメフリーク”ではまったくなく、本来は化粧品をスーパーで、今日のおかずを買うついでに買ってくるようなクラスター。化粧品は一応必須品と考えてはいるけれども、決してお金をかけない、そういう“あまり魅力的ではない消費者”だったかもしれないのだ。もちろん1000円の化粧品と1万円の化粧品が大差ない、などと言うつもりはない。ただ頭を使って工夫して、巧みに使いこなせば、1000円の化粧品でも5000円くらいの効果は出せると思う。いや、1万円と遜色ない効果だって出せるかもしれない……ということに気づくと、美容って俄然面白くなるはずなのだ。

 もっと言えば、化粧品を使わなくたって、日常の“ちょっとした工夫”でキレイにもなれるし、若返りだってできる……そのことに気づくと、人生そのものが少しラクになるのではないかと、そう思ったのである。

 そもそも“若さ”をカタチづくることだけがアンチエイジングではない。とても単純に明日を楽しみにすると、何だか命が若返る……それに気づくこと自体も、人生の質を変えることになるのだろう。ともかくそういう発想の扉を開けると、日常生活のいろんなことがアンチエイジングになってくるのに気づくはずなのだ。

 極端な話、朝早めに起きて、カーテンを一気に開け放す……そんなことだって命のアンチエイジングになることに気づけると思う。ハイヒールを履き続けることだって、立派なアンチエイジングとなりうる上に、肉体的にも精神的にも人を老けさせない、両面のアンチエイジングとなることに気づけるはずなのだ。

 そんなふうに、ごくごく身近なことに若返りの効果を見つけ出すと、もう止まらない。あれもこれもと、何でもないことにいちいち“美容効果”が見つかる。何気ない一日の中に、そういうものがいくつも見つかると、退屈な一日が退屈でなくなるはずで、そこに生まれるのは人生の好循環。そこまでを含めて“気づくだけのアンチエイジング”という提案をしたかったのだ。

 昔、モノがなかった時代、人間は皆もっと考えて考えて工夫していた。たとえば“てぬぐい”で肌を拭くと自然な角質ケアになる……みたいなことも、昔の人は考えて試してみて、効果を確信して、それをひとつの習慣にした。“民間療法”とされることの多くは、専門家でも何でもない普通の人々が、当たり前の生活の中から見つけ出した“気づきのアンチエイジング”に他ならないのだ。でも今はモノがあふれ、何より情報があふれすぎていて、だから多くの人は何も考えなくなった。工夫などする必要もなくなった。むしろいやでも目に耳に入ってくる不要な情報を、いかにして排除するかに神経をすり減らす時代になってしまったのだ。だからここでもう一度、考えて工夫して気づく習慣を取り戻してほしいと考えてみたのである。

 もっと言うなら、化粧品にまつわる情報ならば、雑誌はもちろんWEBでいくらでも取りこめるが、“読むだけ”“気づくだけ”でキレイになれると提唱できるのは書籍だけ。ベースとなったのは、朝日新聞「ボンマルシェ」で5年にわたって連載をさせていただいている「美しく歳を重ねる」ためのコラムだが、だからこそ年齢を超え、ある意味性別をも超えて、人が人として美しく歳を重ねていくってどういうことか? それを伝えたいという想いが、この一冊になったのである。