春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
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 20日放送の「鶴瓶の家族に乾杯」(NHK総合・毎週月曜午後7時57分)は、先週に引き続き、春風亭一之輔さんが富山県滑川市へ! 今回のゲスト、春風亭一之輔の連載コラムから旅や地方での出来事にまつわる人気記事を振り返る。(「AERA dot.」2023年7月16日配信の記事を再編集したものです。本文中の年齢等は配信当時)

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 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「海」。

 私は千葉県の生まれなので「海があっていいですね!」と無邪気に言われることが多い。千葉は広い。私の故郷、野田は千葉県北西部の突端だ。チーバくんの鼻の頭。お年寄りはほとんど北関東訛りだし、海なんか年1回夏休みに家族旅行で行くとこだっぺよ。

 小学生までは外房の鴨川に毎年家族で行ってたな。車酔いが酷かった。小2の遠足で木更津へ潮干狩りに行った。帰り道、アサリをパンパンに詰めた網が破れてしまい破れ目を抑えて、泣きながら帰ってきた。大学の落研のとき、合宿で館山にあった日本大学の宿泊施設に泊まった。帰り際、宿舎長のおじさんに「君達にはもう二度と来ないで欲しい」と吐き捨てられた。なにがあったのかはよく覚えていないが、千葉県民なのにオラァ千葉の海にはあまり良い思い出がないんだべ。

 大人になってから行った千葉の海は外房の某町。もちろん仕事。落語家になって5、6年目の学校公演だった。中学か高校か、地名すら記憶にないのだが、とにかく外房で、東京駅から2時間以上かかった。新幹線なら盛岡、金沢、京都まで行ける。千葉というところはホントに交通の便が悪い。そのせいか県民にいっさいまとまりがない。愛県心のかけらもない。なんなら県知事の顔も名前も知らない。県の花、鳥、木、そんなものがあることも知らない。市町村だってそうだ。千葉市はさほど栄えてないくせに県庁所在地という地位に胡座をかいてる。市川、船橋は千葉市を見下していて、賑やかなのは一部だけなのに「自分たちはほぼ東京」と勘違いしている。舞浜がある浦安はもはやオリエンタルランド市とよぶべきで、ミッキーマウスに市長になってもらえばいい。成田は空港と団十郎でもっているようなものだ。その他の街はそれぞれ千葉県内にあるという意識すらなく、木更津なら木更津! 富里なら富里! 野田なら野田! と古代の豪族感覚で、魚を獲ったり、スイカを育てたり、醤油を造ったりして好き勝手に生きている。でもどういうわけか、みんな「なのはな体操」だけは踊れる。千葉は「なのはな体操」のみで結ばれている、そんな危うい県なのだ。 

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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