田村耕太郎『頭に来てもアホとは戦うな!』(朝日新聞出版)
田村耕太郎『頭に来てもアホとは戦うな!』(朝日新聞出版)>>書籍の詳細はこちら

子どもが遠慮を覚えると、本心を言えなくなる

 私は自分の子どもに、「遠慮はするな。なんでも思ったことを言いなさい」と繰り返し伝えている。好きなものは好き、イヤなことはイヤと言える子であってほしい。そうでなければ、自分が何を好きか、何を嫌いかがわからなくなるからだ。

 その甲斐あって、うちの娘は、自分の意見をしっかり言うことができる。

 私が「ええ~これ食べないの?」などと言おうものなら、「それはパパの基準でしょ? 私のオピニオン(意見)は違うの」とキッパリ言い返される。

 それでいい。人間関係で何がいちばん大事かと言えば、正直であることだ。

 子どもが遠慮を覚えると、本当のことを言わなくなる。たとえば、いじめられても親に隠す。イヤなときも作り笑いでごまかす。相手が嫌がることを親に共有しなくなることほど親子関係で恐ろしいことはない。あとで「なんでいわなかった!」「とにかく言え」とか脅しても、脅すほどさらに隠されるだけだ。

 何より、これからの時代は「好き」を早く見つけないと大変なことになる。AIにやられる人になってしまうのだ。AIに勝てる人は、自分の好きなものを早く見つけて、AIを、その「好き」の探求に使い倒すことができる人だ。好きでもないことを、親や教師や友人の期待に応えるために、やっていても、継続した努力も、それに対する没入もできない。そうなるとAIを味方にして使い倒すこともできるはずがない。

 相手の期待に沿うことを子供に覚えさせてはいけない。親の期待なんて、親はどうせ早く死ぬのだから、答えても長期的には無駄だ。自分の「好き」しか継続して頑張れない。遠慮をさせていたら、「好き」は絶対わからなくなる。遠慮する子は自分を殺している。そして長期的にも自分の将来を殺しかねない。

 相手の期待なんてわかるはずもない。相手もずっと覚えていない。そんなことを基準にして生きても何の意味ない。

 「遠慮せず」、自分に正直に相手にも正直にすることが、皆が限られた時間やエネルギーも無駄使いしない社会への第一歩である。「遠慮しないこと」は、これからの、AIをリードして人間が生きていく社会ではさらに大事になってくる。

 子供に遠慮させてはいけない。

(構成:伊藤あゆみ)

[AERA最新号はこちら]