1983年の島田雅彦のデビュー作『優しいサヨクのための嬉遊曲』は、旧左翼に引導を渡すような小説だった。「もう君たちの時代は終わったんだよーん」みたいな。
 その島田雅彦が、いったいどうしたんだ、政治を語ってる! 書名はしかも『優しいサヨクの復活』。
〈政権中枢にいる人々の折々の発言には唖然とするばかりで、ある朝目覚めたら、日本は全体主義国家になっていたようなものである〉。そんな「悪い冗談」みたいなこの国への、これは本気の処方箋なのだ。
 極右クーデターに等しい現政権がなぜ誕生したかを分析し、バリケードとしての日本国憲法の価値と使用法を提言し、アメリカの軍事的思惑を推理し、日中米の外交バランスを『三国志』になぞらえ、北方四島・尖閣・竹島の領土問題については大胆な構想を示し、天皇の戦争責任と歴史認識問題を解きほぐし、中韓とのコミュニケーションの方法を語り、もう八面六臂である。下手な政治学者や社会学者のモゴモゴしたご高説よりずーっと明快。これ1冊で戦後政治をほぼ把握できそうだ。
 作家は憂えているのである。今日の永田町は〈民主党政権時代に左派のポテンシャルを使い切ってしま〉い、〈社会民主系の中道左派もほとんど埋没し〉た結果、〈与党もウヨク、野党もウヨク〉な状況に。〈戦争に前のめりになっている安倍政権の政治的決定は、国家を自殺に追いやるようなものだ〉ってことに。だからこう宣言するのである。
〈戦後の政治的経緯を振り返ると、いまこそサヨクの存在価値を見直すときが来たと思う〉
 この夏、安保法制に反対する学生たちが路上で抗議する姿を見て、政治に無関心だった過去を恥じ、〈政権支持派やネトウヨに攻撃される優しいサヨクの息子、娘たちを援護したいと思った〉と述べる島田雅彦は法政大学の教授でもある。
 中立ぶってる連中のわけ知り顔な民主主義論は役に立たない。学生諸君はこういうのを読まなくちゃ。

週刊朝日 2015年12月4日号

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