妻には頭の上がらない田山さんも、コロナ禍で夫婦のコミュニケーションが「食」に集約されていく中では、それなりにヤンチャもしていた。
「朝だけでなく、夜も『何食べたい?』って聞かれるものですから、普段、健康のことを考えてあまり油物を出さない妻に、油物をリクエストしたり。そうすると、すごく量が少ないんですよ。しかも、食べ終わって時計を見ると16時半ぐらいだったりして(笑)。ここからどうやって過ごすのって話ですよね。テレビを観て、お風呂入って、出てきてちょっとウイスキーを飲んで、時計を見たら23時。その頃になると無性に汁物が食べたくなる。でも、妻に汁物が食べたいなんて言えないから、ひたすら彼女が寝るのを待って。コンビニで、5分20秒ぐらいチンするだけでできるラーメンがあるので、それを夜中の2時ぐらいに食べるんです」
妻に隠れての悪事は、食べるところまではうまくいった。問題は、プラスチックのどんぶりをどう処分するかだ。
「そのままゴミ箱に捨てるわけにはいかないから、細かく切って……。そんなことをやっていたら結局すぐばれて、『やめてね』と軽く言われました」
徐々に舞台や映像の仕事が復活したところで、せっかく幕を開けた舞台が休止になってしまった。
「70歳になる少し前、実はちょっと膝を痛めて。当時はまだ『何でもできる!』って思ってたから、ジョギングなんかしちゃったら、余計に膝が痛くなってしまった。整形外科の先生に『お年ですから、やめてください』と言われてショック(苦笑)」
初めて自分の年齢を意識し、70歳になることが怖くなった。
「それで、年齢に関する本を読んだりするようになると、今度は、和田秀樹先生の『70歳が老化の分かれ道』っていう本に出合うんです。本の中では、僕が年齢に逆らっていろいろやろうと思っていたことが全部否定されていた。要は、『何もしなくていい』という内容だったので、『あ、バタバタあがかなくても、このままでいいんだ』って開き直ったんです(笑)」
(菊地陽子 構成/長沢明)
※記事の後編を読む>>「俳優・田山涼成が新たな演じ方に挑戦『70を過ぎての課題がうれしい』【後編】」はコチラ
※週刊朝日 2023年4月14日号より抜粋