イル・ヴォーロ(IL VOLO)が2024年4月30日に東京国際フォーラムホールAにて、【ジャパン・ツアー2024 LIVE IN CONCERT】東京公演を開催した。来日公演は2年ぶりで、今年は結成15周年ということもあり、コンサートを待ちわびていたファンたちが彼らの美しくパワフルな歌声に熱狂する2時間となった。
まず、オーケストラと指揮者マルチェロ・ロータのみの舞台上で、フルートが「黄金のエクスタシー」の冒頭を奏で、荘厳な音楽に合わせ3人が舞台に現れ歌い始める。続けて、愛のメッセージに魅了される「誰も寝てはならぬ」、情熱的なスペインを感じさせる「グラナダ」を披露。冒頭3曲が終わる頃には、彼らの美しいパフォーマンスに圧倒され会場中が歓喜に溢れていた。
歌唱中はパワフルな歌声、鋭い視線を見せるが、間奏中は客席やオーケストラを温かく見渡し、MCは朗らかで楽しい雰囲気だ。15周年を祝うツアーの最初を日本で開催できたことを喜ぶと、「広がりゆく愛」、イタリア映画音楽の巨匠、故エンニオ・モリコーネに敬意を表した「ニューシネマパラダイス」を歌い、切なさと郷愁を誘う。
続いて3人それぞれの歌声の個性が発揮されたソロ・ステージ。イニャツィオは「子供の頃からよく聴いていた」というアリア「Pour mon ame」を披露。テノール歌手にとって難題である曲中9回も登場するハイCが出るか不安だと冗談めかして話すイニャツィオだったが、クライマックスのロングトーンまで完璧に歌いきると拍手喝采を浴びた。ジャンルカはミュージカル『オペラ座の怪人』から「The Music of the Night」を歌い、囁くような繊細な低音でロマンティックに聴衆を魅了。ピエロは「Recondita armonia」で、柔らかなオーケストラの音色と朗々と響く歌声の調和を見せた。
再び3人での歌唱へと戻ると、「マッティナータ」と「帰れソレントへ」を続けて歌った。ソロ・ステージでは一人一人個性的な表現を見せるが、3人揃うと絶妙なバランスで心地よさを感じる。そして、新アルバム『アド・アストラ』から披露されたのは、イギリスのロックバンド、クイーンの名曲をカバーした「Who Wants to Live Forever」。「クラシックとロックを合わせたらどうなるのか」を常日頃から考えて選んだというこの曲では、原曲を踏襲した前半の伸びやかな音楽と、後半の厳かなロックのビートがイル・ヴォーロの歌声とマッチする。これまでも様々なジャンルの音楽とベルカント唱法との融合を試みた彼らであるが、さらなる高みへ飛翔を確信させるパフォーマンスだった。
一度3人は舞台袖へはけ、マルチェロ・ロータと東京21世紀管弦楽団が奏でる『カヴァレリア・ルスティカーナ』の間奏曲でプログラムは中盤へ。3人が舞台に戻ると、フィギュアスケーター・羽生結弦のエキシビション曲として使用された「ノッテステラータ(星降る夜)」が歌われた。青く光る舞台に星が散りばめられ、オーケストラと歌声のこの上なく美しい融合が観客を幻想的な空間へ誘った。
甘く夢見心地な空間は、イニャツィオとピエロのデュエットによる「女心の歌」で楽しい雰囲気に。アイコンタクトを取ったり、身を寄せ合いながら歌ったりと音楽を心から楽しむ姿に観客も笑顔になる。最後にハイトーンを決め、音楽が終わると2人は固い握手を交わし、肩を組んだ。続いてはイニャツィオとジャンルカによる「マリア」。柔らかに心を溶かすジャンルカの低音と、芯があり透き通るイニャツィオのハーモニーが美しく、愛する女性の名前を切々と呟いているようだった。デュエット・ステージのラストはジャンルカとピエロによる「マイ・ウェイ」。伸びやかだが語りかけるような2人の歌声が、人生の終わりが近づいているという切ない歌詞の意味をさらに増幅させた。
だが、悲しい気持ちもイニャツィオが笑顔に変えてくれる。ジャンルカとピエロのデュエットが終わり、舞台袖に控えていたイニャツィオはスライディングをしながら戻ってきた。「恋する兵士」では、観客も思わず手拍子をしてしまう、美しくもノリの良い音楽が高揚感を誘う。高まるテンションはそのまま、オーケストラが『カルメン』の「前奏曲」によって、コンサートの後半に繋いでいく。
「カルーソ」、「ネラファンタジア」と対照的な音楽を続けて披露し、MCタイムへ。「次の曲は再びイタリアの代表的な音楽に戻っていく」と語るピエロ。イル・ヴォーロはイタリアの伝統、ベルカントを強みとして、さまざまな国、街、世界遺産で歌ってきた。2年前には清水寺でライブを開催し、映画にもなった。これまで支えてきてくれた人々やファンたちに感謝の気持ちを述べてから歌われた「フニクリ・フニクラ」は、観客の手拍子と身を揺らしながら歌うメンバーたちで大盛り上がりとなった。
プログラムも終盤、再びソロ・ステージに移り、観客は三者三様の表現を堪能。そして、本編最後はイル・ヴォーロ始まりの音楽「オー・ソレ・ミオ」だ。2009年にユニットが結成された当時を「夢をポケットいっぱいに詰めた子供たちだったんだ」と、振り返ったメンバーたち。その夢を実現しながら活動できていること、指揮者のマルチェロ・ロータとの10年間の絆に感謝しながら輝く太陽のように情熱的に、爽やかに本編を締めた。
曲が終わるやいなや、スタンディング・オベーションで3人を熱烈に賛辞する観客たち。万雷の拍手は鳴り止まず、アンコール曲「乾杯の歌」へ。前奏や間奏で観客に手拍子を求めたイニャツィオは、歌う寸前におどけたように手拍子を止めるように合図。会場が一体となり音楽を楽しむと、3人ともイタリア語や日本語で何度も「ありがとう」と伝えた。そして、ラストナンバー「グランデ・アモーレ」の中盤からは、なんと、舞台から降りて客席へ。場内を練り歩き、観客一人一人と握手しながら歌い上げるメンバーたち。曲が終わって舞台裏に帰っていく間も、別れを惜しむように手を振りながら「またすぐ会いましょう!」と言ってくれた。15周年というアニバーサリー・イヤーの皮切りを最高のパフォーマンスで楽しむ大熱狂の2時間となった。
Text: 山下実紗 / Photo: Ryosuke Makita
◎公演情報
【IL VOLO ジャパン・ツアー2024 LIVE IN CONCERT】
4月25日(木)愛知・愛知県芸術劇場大ホール
4月28日(日)大阪・ザ・シンフォニーホール
4月30日(火) 東京・東京国際フォーラムホールA
5月2日(木)北海道・札幌文化芸術劇場hitaru