『モフモフはなぜ可愛いのか:動物行動学でヒトを解き明かす (新潮新書 1032)』小林 朋道 新潮社

 私たち人間はそれぞれ違った性格や個性を持ちながら、ある特定の物事に対して共通の行動を取ることがある。例えばうれしいことがあったときに喜んで飛び跳ねたり、気に入らないことがあったときに地団駄を踏んで感情を表したり......。特に意識をしていなくても自然と似通った行動を取ってしまうのはなぜなのだろうか。

 今回紹介する『モフモフはなぜ可愛いのか:動物行動学でヒトを解き明かす』(新潮社)は、動物行動学の知見をもとにヒトに関する素朴な疑問を解決してくれる一冊だ。長年さまざまな野生動物の行動や習性を研究してきた著者・小林朋道氏が、自身のSNS上で「ヒトという動物」の疑問を募集。その中から厳選したヒトに関する13の疑問について、独自のユーモアを交えながら回答している。

 例えば同書のタイトルにもなっている「ヒトはなぜモフモフしたものを可愛いと感じるのか」。小林氏は「モフモフ」を「比較的、短めの毛がびっしり被っている状態であること」と「比較的、丸っこくて、小さめであること」の2つの要素に分けた。そして、動物行動学の基本認識に当てはめて以下のように定義している。

「ヒトの、カワイイという感情も含め、様々な心理、そして行動、体の構造などの特性は、自分(正確に言えば、遺伝子)の生存・繁殖にとって有利になるようにプログラミングされている」(同書より)

 つまり「比較的、短めの毛がびっしり被っている状態であること」や「比較的、丸っこくて、小さめであること」を可愛いと感じることが、ヒトの生存・繁殖に有利になっていると考えられるのだ。では具体的にどのように有利になっているのか。小林氏の立てた仮説では、それは大人が幼児を見て「保護してあげたい」という感情が沸くことに関係しているという。

「子どもは、保護者の助けを借りないと生きられないくらい、幼ければ幼いほど、頭部を中心に、体が丸っこいのである。
いっぽう、親に関しては、自分の遺伝子が後の世代で、生き残り増えていくためには、幼い子どもに対して『保護してあげたい』という心理を強く感じ、それに動かされて行動するように、その脳や他の器官、身体がつくられていなければならない」(同書より)

 これを実現させるため、ヒトは幼児のように「ふくよかで丸っこい」ものを見たときに、「保護してあげたい」という感情を生じさせるような神経配線が備わっているのだと小林氏は考える。さらに「ふくよかで丸っこい」以外にも、幼児が持つ特徴である「相対的に大きな目」「相対的に小さな口元」「ぎこちない動き」などに対してもヒトは同様の感情を持つという。

 もう1つの要素である「比較的、短めの毛がびっしり被っている状態であること」について、小林氏は洞窟の寝床を例え話に挙げて読者に質問を投げかけている。「ふんわりしたキリンの毛皮を広げた寝床」と「洞窟の外に生えている木の枯葉を敷きつめた寝床」、

「さて、あなたは、どちらの寝床に横たわるだろうか」(同書より)

 おそらく大抵の人は、キリンの毛皮を広げた寝床を選ぶだろう。なぜならキリンの毛皮のほうが肌触りがよいと想像できるからだ。生存・繁殖という視点から見ると、肌触りがよいということは体の表面に怪我をする危険性が少ないという意味を持つ。

 以上のことから小林氏は「モフモフはなぜ可愛いのか」について、2種類の仮説的答えを提示した。1つは、哺乳類や鳥類の子どものように一般的にモフモフしているものは「ふくよかさ」や「丸っぽい」といった性質を持っていることが多いという仮説。もう1つはモフモフしているものは体が傷つく可能性が低く、生存・繁殖に有利なため、快感を生じさせる。そのため「ふくよか」で「丸っぽい」ものがモフモフしていたとき、より可愛いと感じるようになるという仮説だ。

 また、小林氏はヒトの行動や心理の大枠を決めているのは遺伝子だと述べている。私たちは脳内の神経系の配線によって痛さや恐れ、恋などの感情を生み出すが、それらの配線を決めているのはヒトの遺伝子だからだ。そして遺伝子がなぜヒトにこうした感情を発生させているかというと、そのほうがより遺伝子の生存・繁殖に有利だからである。言い換えれば、生存・繁殖に有利な神経配線を設計する遺伝子を持った個体は生き残って増えていく。こうした個体の子孫が私たちなのだ。

 動物としてのヒトを知ることは、自分自身を知ることにも繋がる。同書を読んで自分自身への理解を深めることで、よりよく生きるための何かしらのヒントが得られるだろう。