
「もう飼えないわよ。私も年なんだから」
妻が電話でそんなことを言っている。かつては猫を20匹ほど飼っていたが、おばあちゃん猫のナツちゃんを残すだけとなっていた。
電話の相手は病院に勤める娘だった。妻は通話を終えると、私にこう言った。
「入院していた方が亡くなってね、飼い猫が何匹か残ってしまったんですって」
「全部引き取るのか?」
「とんでもない。1匹だって無理よ」
何日かして、娘がやって来た。手土産に子猫の時期を過ぎた中猫が1匹。「ほかのはもらい手がついたんだけど、この子だけ残ってしまって」と、娘。
妻は根負けしたようにキャリーバッグの中を覗き込んだ。「タヌキみたい。シャムかしらね」。おびえている猫を抱き上げ、「もう大丈夫だからね」。そそくさと台所に連れていき、餌を与えた。こうなれば、もうこの子はうちの子だ。娘も心得たものである。
タヌキ顔なのでポン太(写真右)と名付けた。名前はいつも、思いつきでつける。凝った名前で幸せになるわけでもなかろう、というのが私の持論である。
あれから1年。ポン太の体重は約6キロ。堂々たる体躯の家猫になっている。
見かけによらず甘えん坊で、ママっ子である。雄猫だがやさしく、今年2月に新たに飼い始めたチビ猫モカ(同左)の母親代わりとして、面倒をみてくれる。
ナツちゃんは面倒がって逃げ回っているが、ポン太はイクメンぶりを発揮し、長いしっぽをフリフリしながらモカの遊び相手をしてくれている。
「ポン太はやさしいのね」
妻はべた褒めである。
人間の子どもと同じで、とにかく子猫はしつこいのだが、ポン太はめったに怒らない。イクメンのお手本にしたいような猫である。
(宮野敬さん 神奈川県/85歳/隠居)
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