豆腐?それとも豆富?(写真はイメージ/GettyImages)
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 国語辞書編纂者・飯間浩明氏は「人財」という言葉が生まれた背景を推測する。「人財」誕生には、経営者の親父ギャグ癖や日本特有の当て字文化が関係しているのだろうか?神戸郁人著『うさんくさい「啓発」の言葉』から一部を抜粋して、飯間氏の考察を解説する。

むむむ…これってどう読むんだっけ?

 「人財」と「豆富」にと共通する話者の心理

 少なからず、肯定されてきた側面も強い、「人財」という言葉。「材」ではなく、あえて「財」を採用した人々の心理について、国語辞書編纂者・飯間浩明さんは、「豆富(とうふ)」を引き合いに、自らの解釈を語りました。

 「豆富」とは、「豆腐」を書き換えた造語です。飯間さんによると、1960年代に島根県豆富商工組合(当時)が使い始めて以降、全国に広まりました。文字通り、験担ぎの意味があるといいます。

 「業界関係者は、四六時中『腐』という字を見るうち、『我々が作っているものは、別に腐っていない』『せっかく誇りを持って仕事をしているのに、縁起が悪い』などと感じるようになったのではないでしょうか」

 「作る方は、『豆富』の方が売れ行きが良くなる、と思えたのかもしれません。ある言葉に日々接していると、『この表記のままでいいのか』と疑いを持つようになるものです」

 一連の表現の系譜に、「人財」も位置づけることができそうです。飯間さんは「人材」の起源に触れつつ、普及の過程にまつわる自説を披露してくれました。参考情報として挙げたのが、『日本国語大辞典 第二版』(小学館)の記述です。

 語釈(語句の意味の解釈)を見ると、「人材」は「人才」とも表記する、との説明がありました。8世紀の書物に「人柄としての才能」という意味で登場する他、福沢諭吉が著書で「才知の優れた人物」を指して「人才」を使った、とも書かれています。

 一方で「人材」の「材」は資材、建材などにも用いられます。この点を踏まえ、飯間さんは次のように推し量りました。

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親父ギャグへの拒否反応に近い