斎藤幸平(さいとう・こうへい)/1987年、東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。著書に『人新世の「資本論」』『マルクス解体』など(撮影/写真映像部・東川哲也)

 時間を忘れて没頭できる読書だが、各界の読書家や識者はどんな本を読んできたのか。経済思想家・斎藤幸平さんに、おすすめの本について聞いた。AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より。

【斎藤幸平さんが薦める本はこちら】

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 私は資本主義の問題、搾取の問題を考えるとき、例えば「自然からの搾取」というような、より広い視点で考える必要があると思っています。

 そんな観点からまず挙げたいのがガレアーノの『収奪された大地』です。ヨーロッパの帝国主義がラテンアメリカから500年にわたって豊かな資源を奪い取っていった様を描いており、グローバルサウスからの収奪という、今も重要な視点で問題を提起しています。

 女性からの収奪も見過ごせない問題です。資本主義はケア労働のような再生産労働の担い手として、女性を無償の労働力として搾取してきた歴史があります。『世界システムと女性』はマリア・ミースら3人の女性による論文集で、フェミニズムとエコロジーの視点で女性からの収奪について論じています。

岩波文庫を片っ端から

 こうしたグローバルサウス性は日本国内にも存在します。例えば沖縄の問題。

 哲学者の高橋哲哉さんの『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』はタイトルの通り沖縄の米軍基地を本土で引き受けるべきだと主張する論考で、画期的な本です。高橋さんは私がマルクスを研究するきっかけになった人でもあり、他の著作からも影響を受けています。

 高校まではサッカーや音楽に熱中していて、それほどたくさんの本を読んでいたわけではありませんが、大学に入ってからは本を読むことが日常でした。息をするように本を読んでいたとも言えます。岩波文庫がまとまって並んでいるような書店に行って、それこそ片っ端から買って読むような生活でした。

 当時読んだ本で最近私が薦めているのが、アーシュラ・K・ル=グィンの『所有せざる人々』(ハヤカワ文庫)。ある種の脱成長社会を描いたユートピア小説です。

 ウィリアム・モリスの『ユートピアだより』(岩波文庫)も印象に残っています。

 エンゲルスの『空想から科学へ』(大月書店)ではありませんが、未来の社会がどのようになり得るのかという想像力を高めてくれるという意味で小説を読むのもとても意義深いと思います。(構成/編集部・川口穣)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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