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 1992年2月20日。福岡県飯塚市で小1の女の子二人が殺害された「飯塚事件」。犯人とされた久間三千年(くま・みちとし)は2008年に死刑執行された。しかし冤罪を訴える再審請求が提起され、事件は続いている。警察官、弁護士、新聞記者の立場から事件に迫る圧巻のドキュメンタリー「正義の行方」。木寺一孝監督に本作の見どころを聞いた。

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 飯塚事件を知ったのは2011年で再審請求が提起された後です。死刑執行後の再審請求なんて例がない。もし冤罪だったらとんでもないなと番組を企画し、最初は弁護側の視点で取材していました。14年に再審請求が棄却されて番組はお蔵入りになってしまいましたが、18年に当時事件をスクープした西日本新聞の検証連載に刺激を受けて取材を再開し、22年にNHK BS1スペシャルとして放送し、今回構成を変えて映画化しました。

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 登場人物の目線によって捉え方が変わる演出を「羅生門スタイル」といいますが、テレビ版からその手法で警察、弁護団、西日本新聞の記者、異なる立場の人々の取材を等距離にフェアにやろうと決めていました。すべてを中立にすることで見えるものが違ってくる。実際、自分も取材をしながら揺れ動きました。元刑事が「もし自分が犯人でなかったら、久間はもっと死に物狂いで『違う』と言ったはずだ」という場面。事前取材で元刑事と向かい合って「あんたならどげんする?」と聞かれるとまるで取調室にいるようで困惑してしまう。冤罪という目線からでは気づかない警察の事件解決への熱量も感じました。警察には警察の真実や正義がある。弁護士も記者も同じです。でも警察は自白がとれなかったという思いを、弁護士は自分が久間さんを殺してしまったという思いを、記者はそれに加担したという思いを引きずっている。誰にとってもこの事件は終わっていない。本作が問うのは有罪か無罪かという裁判の行方ではなく「正義の行方」なのです。

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 実際、事件は終わっていません。第2次再審請求の結果が4月以降に出ます。人が人を裁くことの難しさを体感しながら「自分ならどう裁くのか」を考え、映画として楽しんでもらえればと思います。

木寺一孝(監督)きでら・かずたか/1965年、佐賀県生まれ。京都大学卒業後、NHKに入局。死刑や犯罪を題材にしたドキュメンタリーを多く制作。現在は「ビジュアルオフィス・善」に所属。27日から全国順次公開(撮影/写真映像部・上田泰世)

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年4月29日-5日6日合併号