「サッカー好き芸人」「料理好き芸人」といった一般的なキャラクターに比べると、「クズ芸人」というキャラクターは扱いが難しい。もともとイメージが良くないことをしているため、それが行き過ぎると笑えなくなってしまう。逆説的だが、「クズ芸人」こそは絶対に道を踏み外してはいけないのだ。
そもそも、芸人は人の上に立つのではなく、あえて下に立つのを基本ポジションとしている。上から目線で何か言っても、偉そうに見られてしまい、笑ってもらうのが難しい。だから、芸人は基本的には下のポジションを取りたがる。その方が、見る側の警戒心が薄くなり、笑いが起きやすくなるからだ。
粗品の借金はエンタメ
ギャンブル好きの芸人が「クズ」を売りにするのも、下に構えるための武器の一つである。無粋を承知で言わせてもらえば、彼らは戦略として下のポジションをとっているだけであり、彼ら自身が人間として下であるわけではない。芸人は笑いのために自ら下に滑り込んでいるだけだ。
粗品の借金ネタも、結局のところ、それだけの大金を稼ぎ、それだけの金を借りられるほどの信頼を重ねていることが前提になっている。その限りで彼の借金はエンタメになっている。
他人の金に手を付けて信頼関係を壊すというのは、れっきとした犯罪であり、いわゆるクズキャラとは明確に区別されるべきだ。水原容疑者の事件には話題性はあるがエンタメ性はない。この事件で改めて「クズ芸人」の面々のマネーエンタメの素晴らしさに光が当たることを願っている。(お笑い評論家・ラリー遠田)