
「スーツと言えば、水原がはいてたズボン、ずり落ちてたよね?」
ネットワーク局ABCニュースのLA支局のイジー記者がそう言うと、周囲のLAの記者たちが「そうそう。そこが一番気になった」と口々に言った。
足かせをはめられて法廷内に姿を見せた水原容疑者。
なぜズボンがずり落ちそうだったのかという疑問に、ベテランの法廷記者はこう語った。
「それは、彼がベルトをしていなかったからだよ。靴ひもやベルトなど、自殺につながる可能性があるものは、当局に身を引き渡した段階で全て取り上げられる。それが決まりだから。だから、ネクタイもなしだった」
「なるほど」という声が周囲から上がると同時に「自殺の可能性」という言葉の重さがズンと響いた。
保釈金のやりとりはない
「ひとつ確認したいんだけど、『unsecured bond』という言葉が法廷で出たけど、この『unsecured』って?」
米大手通信社の犯罪事件担当のステファニー記者が、法廷内で取ったメモを見返しながら、そう言った。
「bond」とは保釈金のことで、今回、裁判所が水原容疑者に課した保釈金の額は2万5千ドル。つまり日本円にすると約380万円だ。
「そもそもこの金額、安すぎない? 1600万を盗んだ容疑だよ」とあるカメラマンが言う。
すると前出のベテラン法廷記者がこう答えた。
「unsecured というのは、簡単に言えば、保釈金を現金で支払う必要がないという意味だ」と言った。
「え?」と周囲がどよめいた。
2万5千ドルの保釈金を裁判所に納めて初めて、水原容疑者はこの建物から歩いて出てくることが可能なのではないのか?
「今回、保釈の条件として裁判官が水原に言い渡した項目を全て守って彼が生活する限り、今日の時点では1ドルも金を払う必要がないよ」
取材メモの整理をしていた記者たちから「そうなのか!」と声が上がった。
裁判所の前では「保釈金2万5千ドルで釈放されます」と地元テレビのアナウンサーが実況していたが、実際に現金のやりとりはないのか?
裁判官は保釈の条件として、大谷選手に接触しないことや、今後、賭博に関わらないこと、ギャンブル依存のカウンセリングを受けることなどを示し、弁護側は受け入れた。条件に違反した際に保釈金を納付する必要があるという報道もある。
ニューヨーク州の元連邦検事補のジョシュア・ナフタリス氏がこの「unsecured」という言葉を法的に説明する。
「unsecured bondというのは、水原の出廷は、現金やその他の資産で保証されるものではない、という意味だ。つまり出廷すると約束して裁判所に実際に姿を現さない場合などには、この保釈金全額を払わなければならない決まり」と言う。
次回の出廷日には必ず出頭するという合意文書に本人がサインし、裁判所側としては署名した人物の「良心」を信じるという形で、保釈するわけだ。
2万5千ドルという金額のさじ加減と「unsecured bond」というやや珍しい、温情とも取れる措置が今回のケースで取られたことに対し、ナフタリス氏は「今回、水原は自分から当局に身柄を引き渡して自首の形を取った。裁判所が保釈金の金額と条件を定める際に、その点を考慮した可能性は高い」と語る。