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 不動産投資は、多くの人々にとって魅力的な資産形成の手段ですが、その成功は投資家の属性や市場のタイミング、さらには経済全般の状況によって大きく左右されます。この複雑な領域において、最近のファイナンスの学術研究(*1)が、特定の投資家グループがなぜ不動産投資で成功しやすい、あるいは失敗しやすいのか、興味深い洞察を提供しています。

 アメリカで収集されたデータに基づくこの研究は、ファイナンス分野で非常に高い評価を受けている世界トップ3に入る学術雑誌に掲載されました。この研究では、不動産投資のリターンがファミリー層、シングル女性、シングル男性でどのように異なるかを分析しています。ここで注目すべきは、経済学の最新の統計手法を用いて、偶然の景気の良さや投資家個人の知識レベルといった外的要因を排除し、純粋に属性が投資の成果にどのような影響を与えるかを明らかにしようとした点です。結果は、下記の図表に示されています。

 最新の値ではファミリー層は、不動産購入後のリターンが平均的に最も低いグループであるという結果でした。この理由として、ファミリー層が市場の状況よりも家族のライフイベントを優先し、不動産投資の最適なタイミングを逃しやすいことが挙げられます。例えば、子供が生まれる、学校の選択、転職などのタイミングで住宅購入が必要になるため、不動産市場がファミリー層にとって不利な時期でも取引を進めざるを得ない状況が生まれます。

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崔 真淑

崔 真淑

エコノミスト。2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。16年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。18年より同大学の博士後期課程に在籍。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後に、「経済のスペシャリストの世界に触れたい」と、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わる。当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。債券トレーダーを経験したのち、日本の経済リテラシー向上に貢献したいとの思いから2012年に独立。経済学を軸に、経済ニュース解説、経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動。

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