「手に持つのはおかしい」とヒゲの殿下

 シルクハットを手に持つ男性皇族が多いなかで、「ヒゲの殿下」として親しまれた三笠宮家の故・寛仁親王だけが、シルクハットを被っている機会が多かったようだ。

 皇室の事情に詳しい人物は、こう振り返る。

「寛仁殿下は、シルクハットは被るもので手に持つのはおかしいと、よく口にされていました」
 

2006年春の園遊会で、シルクハットでダンディに決める三笠宮の寛仁さま。留学で学んだ英国ファッションの著書も出していた=2016年4月、東京都

 寛仁親王といえば、いつも隙のない服装に身を包み、「ダンディーな皇族」としても知られていた方だ。

 留学した英オックスフォード大のモードリン・コレッジは、社交の儀礼と伝統を大切にする校風。そこで英国の正礼装の儀礼や服装の知識を学び、亡くなる2年前には、『今ベールを脱ぐ ジェントルマンの極意』という英国の服装術の本を出版するほどだった。

「儀礼とおしゃれの両方の面において、服装術を大切に考えておられた。人びとを招待する園遊会の場では、正しい作法であるべきだとお考えであったのかもしれません。園遊会では雨に降られることも少なくない。そもそも傘を差してシルクハットを手に持つのは難しいですし、高齢の皇族にとっては安全ではない」(前出の人物)
 

「ヒゲの殿下」が逝去したのは12年6月。その後、園遊会で天皇と皇族がシルクハットを手に持つ光景も、消えていった。

 時代が移れば、儀礼の作法も人びとの感覚も変化していく。歴史と伝統を重んじる皇室であっても、ひっそりと消えていくものも少なくないのだろう。

(AERA dot.編集部・永井貴子)