社会課題の解決を志す若者を支援するプログラムやイベントの根本的なスタイルは、中村がひとりで運営していた時代から大きくは変わらない。それが今、社員の手によって日々進化している(撮影/楠本涼)

「儲からない」と言われると 激しい怒りがこみあげた

 プログラムの実施期間は通常3カ月で、対象者は社会課題の解決を志す起業前または起業したばかりの人。専門の講師による講義、ワークショップ、コーチングセッションなどで構成されている。選考された参加者は漠然としたアイデアを具体化してプロトタイプに落とし込み、潜在的な顧客に意見を聞き、事業としての有効性を検証する。この間、メンターがともに課題に向き合い、事業を立ち上げる道筋を考えていく。こうして手間ひまをかけて伴走した社会起業家は300人を超えた。

「儲からないよ」

 この言葉をぶつけられるたびに、かつての中村は「殺意がわく」ような怒りを覚えたという(言うまでもなく「殺意がわく」は比喩である)。

 その悔しさを成長の糧にしてきた。貧困、マイノリティーの人々の生きづらさ、子育てにまつわる困難、農業の担い手不足など、この国には問題が山積している。理想とする「誰もが生まれてきてよかったと思う世界」を実現するために、社会課題の解決に挑む人を少しでも増やしたい。

 怒りは「創業時に比べたら薄れてきた」と中村は言う。「怒っていると疲れるし」と笑うが、それだけではない。

クラシックピアノを習い始めたのは4歳のとき。だがジャズは勝手が違う。「ちょっと堅いかな。きちんとしすぎ」(講師)。全国を飛び回るため、レッスンは休みがち。「もっと練習したいんですけど」(撮影/楠本涼)

「頭ごなしに否定するんじゃなくて、ちゃんと理解しようとする人が時流的にも増えましたね」

 ようやく、追い風が吹いてきた。岸田政権は「骨太の方針2023」のなかで、インパクトスタートアップ(社会起業家)を生み育てるエコシステムの形成や、社会課題の解決に挑戦する企業への投資とNPOへの支援の拡大を打ち出した。

 2月16日、京都信用金庫が運営する共創施設「クエスチョン」(京都市中京区)で、「京都インパクトスタートアップ起業家支援プログラム」の参加者がタリキの伴走支援を受けながら事業アイデアを練り上げた成果を発表するイベントが開催された。これは経済産業省から補助金を受けて実施したプログラムである。

 9人の発表者の顔ぶれと事業の構想は多種多様だ。ヴィーガンなど食の制約がある訪日外国人旅行者が安心できる和食の店を検索できるグルメサイトを考えた大学生、自身の闘病体験をもとに、がん患者と医療の専門家や闘病経験者を結ぶマッチングアプリを開発した元看護師など。

 講評者のひとりだった中村はすべての発表を聞き終えると開口一番、声を弾ませてこう言った。

「こんな素敵な人たちがタリキと出会ってくれて、めっちゃ嬉しい!」

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