「My Favorite Things」を練習中。実家で弾くとジャズ好きの父が喜ぶ(撮影/楠本涼)

 taliki代表取締役CEO、中村多伽。2017年に京都で誕生したタリキは、社会のためになにが必要かを考えてきた。“夢物語”を実現するために、正しく構造を分析する。人々があきらめたりバカにしたりする新しいことに価値を見いだし、「どうすればおもしろくできるか」を追求する──。創業者でZ世代の中村多伽は、社会課題の解決に対する世間の無理解への怒りを、正のエネルギーに換えてきた。

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京都大学卒業。人目を引く容姿。29歳にして経営者であり投資家──。そう聞くと、中村多伽(なかむらたか)の印象は「そつのない人」だろう。

 だが彼女をよく知る人は一様に、自分からあえて困難な世界に飛び込んで「もがいている」「戦っている」と、その姿を形容する。「燃費の悪い生き方をしている」とまで言う友人もいる。

 中村が京都に根をおろして心血を注いできたのは社会課題の解決だ。社会課題とは「みんなにとって都合のよいこと」を推し進めた結果として生じた歪(ゆが)みだと彼女は強調する。効率的な人間活動のために化石燃料を使い続けた結果、温室効果ガスを大量に排出して環境破壊を招いたように。

 一見すると、社会性と経済合理性は相反する。だから、なにかで困っている少数の人々に手を差し伸べるような商売は儲(もう)からないと思いがちだ。

 だが、中村はきっぱりと言う。

「工夫次第で儲かるように変えられるものもあるし、たとえ収益化が困難な領域でも事業を推進する方法はある。それを考えるのがタリキなんです」

 タリキとは、中村が大学4年生だった2017年に京都で設立した株式会社talikiである。社会にインパクトを与えるビジネスを起こすという志を持ちながらも資金や人脈や経営の知識を持たない、あるいは起業したけれど問題を抱えているという同世代の若者に寄り添う。

 タリキは社会起業家創出のための伴走支援プログラムを独自に開発し、それを全国各地の自治体からの受託運営や民間企業との共同運営、社内起業家育成サポートなど、さまざまな形態で提供している。同社の屋台骨を支える事業のひとつだ。

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