ただ、彼女は懐かしいだけの存在ではない。

 当時、彼女を主人公にした「あしたのナオコちゃん」(中西裕)という4コマ漫画があった。奈保子の天然、明菜のツッパリ、堀ちえみのドジなど、80年代アイドルのキャラをヒントにして面白おかしくギャグ化したものだが、今読むといわゆる「きらら系」の漫画に似ている。

「ご注文はうさぎですか?」をはじめとする萌え系日常アニメの原作も数多く生み出し、最近の「カワイイ」文化の基盤ともなっている世界だ。そういう意味で、奈保子が80年代にかもしだしていた魅力は今の「カワイイ」につながっている。

 他の多くのアイドルと違って、スキャンダルもなかった彼女はアイドル的なかわいさが純然と凝縮されていて、しかもその天然ぶりが今の「カワイイ」の理想にも通じるのだ。

 そんな「きらら系」の世界に、現在のメジャーなアイドルグループでいちばん近いのが日向坂46だろう。そして、彼女たちがデビュー曲「キュン」で示したようなど直球な明るいかわいさは、80年代に奈保子がやっていたものだった。

 日向坂は今アイドルらしさを最もよく感じさせる存在だが、そうしてみると、80年代で最もアイドルらしかったのは奈保子だったともいえる。

 古いとか新しいとかではなく、アイドルとしてのエバーグリーン(永遠)。河合奈保子とはそういう存在なのだ。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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