第2次世界大戦中、兵士を飛行機もろとも米艦船などに体当たりさせたことで知られる「特別攻撃」(=特攻)。本書は資料や当事者の証言などをもとに、特攻の歴史を網羅的に描き出す。
映画などの影響から、現代では特攻といえば「自己犠牲」「愛国心」などのイメージが強い。しかし、著者はこうしたイメージと実態との「食い違い」に斬り込んでゆく。そもそも戦時中、日本は米国との圧倒的な戦力・技術力の差から、特攻の「精神力」に頼ったという。本文では特攻を命じられ「俺は好きで死ぬんじゃない」と書き残し、沖縄・嘉手納沖で戦死した海軍特攻隊員の手記などが紹介される。こうした記録は上官の検閲が入るため残りにくかった。一方、当の上官たちは皆生き残り、戦後は特攻が「志願」であり、隊員たちは「満足感をもって」死んだなどと記している。
両者の落差には驚きを禁じ得ない。「史実」とは一体誰によって、何のために書かれるものなのか。安保法が成立し、戦争の可能性が取り沙汰される現在、本書が投げかける問いは切実だ。
※週刊朝日 2015年10月23日号
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