「最初の数カ月は、何を言っているか全然わからない。だから何を習っているのかもわからない。脳がパニック状態でした。秋から冬に向かうロンドンは日も短いし天気も悪い。気持ちは暗くなる一方でした」

 留学中は日本語を使わないと決めていたが、あるとき日本人と日本語で話す機会があった。思いがけずリラックスできて楽しかった。すると不思議なことが起きた。

「突然、英語が聞き取れるようになったんです。わかるわかる、話せる話せる、みたいな。気持ちにゆとりができたせいかな? 実際、まわりの留学生も『ちょっと学校休んでオランダ行ってくる』みたいに休暇をとったあとのほうが、英語力が上がっているんです。以来、ときどき『電車乗ってパリ行ってきます!』とか、留学生活を楽しむことも心がけました」

英語は前向きな言語 話すと楽しくなる

 ロンドンで英語を学ぶなか、ふと気づいたことがあったという。それは「正しい英語」なんて存在しないということだった。

「スーパーやカフェで働く人は移民が多いんです。だから、どんな訛りのある英語でも聞き取れなければ暮らせない。なんだ、正しいイギリス英語を身につける必要もないんだなぁって気がラクになりました」

 ちなみに「日本人の英語」とはどんな英語なのだろう。

「語学学校の先生には、日本人の英語はセンテンスが短いと言われました。“I”から始まって、主語・述語・ピリオド、さらに主語・述語・ピリオド!みたいな(笑)。学校で習う英語って基本はそれですよね。でも『そんな文章だと、きみの気持ちは伝わらないよ』と言われました」

 そしてもうひとつ、「すみません」に相当する言葉をつい探してしまう自分にも気がついたという。

「でも『すみません』に当たるちょうどいい単語がないんですよ。英語って、ポジティブで前向きな言語。だから英語を話していると楽しくなってくるんです。現地の日本人と話すときも、最初は日本語でも途中から『やっぱり英語で話そう』ってことになる。英語のほうが、ロンドンで暮らす今の自分の気持ちに合う言葉をチョイスしやすかったから」

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