「だから編集者は作家の中にある『描けるもの』に気付かせなければいけないんだよ。手塚さんとかちばさんは、たぶん自分で『描けるもの』に気づけた人なんだけれど、そんな人は何人もいないと思う。それとね、編集者は作家に“信用”されているうちはダメなんだ。それはAクラスの編集者。信じて頼られる、“信頼”されるのが、Sクラスの編集者」
どうすれば信頼される編集者になれるのだろう。
「どんなにつらくても、自分が言ったことは必ず守ること。編集者の作家に対する言葉は、契約書と一緒だからね。編集部の意見と作家の意見が対立したら、必ず作家側に立たなくてはいけない。編集部に作家はたくさんいるけれど、作家には編集者は一人しかいない。目の前の人間が裏切ったら、作家はやっていけなくなるんだよ」
キャッチーで鋭い、その発言を本などにまとめる予定は?と聞くと「ないよ!」と即答。「だって編集者だもん」。現在、3年という期限付きで白泉社の社長を務めるが、マンガ編集者としての視点でものを見続けている。
「マンガ“雑誌”の編集者ね。そこはこれからも変わらないと思う。3年間で本当の意味で僕がやれること、僕が興味があることは、編集者を育てること。編集者を一人育てたら作家が10人育つから」
「今日みたいにこうやって取材で人と会って話をすると、自分が何を考えているかがわかってくるの。でも同じジャンルの人と会って話したり、同じジャンルのものを見ることに興味はなくて。興味があるのは……例えばこういうの」
手元にあった週刊誌を開き、海外で大ブレーク中のダンスユニット「BABY METAL」を指した。
「これはハマるよね。仕掛けた人は、頭がいいなあと思う。異ジャンルでこういうことをやっている人を見るとワクワクする」
3年後、何をするかはもう考えているのだろうか。
「考えている。毎日ね。おぼろげには見えている。僕はね、いつも世界を変えたいって思ってるんだ。自分の周りの世界を」
それはやはりマンガで、なのだろうか。
「うーん……言いたくない(笑)。ただやっぱりね、僕のとりえは才能を見つけることだから。そこに関わる何かをやりたい、とは思っているよ」
(取材・構成/門倉紫麻)
※『手塚治虫文化賞20周年記念MOOK マンガのDNA―マンガの神様の意思を継ぐ者たち―』、鳥嶋和彦スペシャルインタビューより一部抜粋