長年、小野啓さんは自身のホームページやSNSなどで被写体となる高校生を募集し、撮影してきた。
<写真を撮らせていただける「高校生」の方を募集しています。男女・学年は問いません。地域も問いません。被写体になっていただいた方にはお礼に写真を差し上げます>
撮影を始めたのは2002年。これまで20年以上にわたり全国各地の高校生を訪ねてきた。その数は700人あまりになる。
ただ、作品に写るのは爽やかな笑顔の高校生でも、キラキラした高校生活をアピールする若者の姿でもない。彼らの表情には一様に笑顔がないのだ。
小野さんも、「パーッと楽しそうな子はあまりいなかったですね」と振り返る。
ところが意外なことに、当の高校生たちは小野さんの作品をインスタグラムなどで見て、その笑顔のなさに親近感を覚え、応募してきたのだという。
「なぜ、ぼくに撮ってほしいと思ったのか、尋ねると、『笑顔じゃないことに共感した』、という声がかなりありました。こういう写真だったら、ぜひ撮ってほしい、と」
「平成の女子高生」への憧れ
どこで撮影するかは、本人の希望を聞いたうえで決めている。彼らが普段生活しているなじみのある場所を写し込むため、撮影はすべて横位置だ。
最も要望の多い場所は「通学路」で、全体の約半数を占める。建物や歩道を背景にした制服姿のほか、冬枯れの田んぼに立つ高校生もいる。
次に希望が多い場所は「学校」だ。22年前、小野さんがこの作品を最初に写したのも学校で、女子高生を放課後、高校の駐輪場で撮影した。ところが今、学校での撮影は非常に難しいという。
「『学校がいい』という子がいれば、学校にアプローチします。電話したり、FAXを送って撮影意図やこれまで発表してきた作品について説明するのですが、ほとんどの場合、断られます。何か問題になったら困るとか、前例がないから、という理由で」
放課後に訪れるショッピングモールや自宅で撮影することもある。
一方、普段の生活とは違う場所で撮るケースもある。ある女子高生は東京・渋谷での撮影を強く希望した。
「その子は『平成の女子高生』にすごく憧れていて、その象徴である渋谷センター街で撮ってほしい、ということでした。あの時代の女子高生は行動力があってとても自由だったイメージがあるそうです。でも、自分はそんな楽天的な気持ちにはなれないから、そうありたいと思う自分をここで撮ってほしい、と」
この女子高生もそうだが、最近は「ルーズソックス」など、2000年代にトレンドだった服装やアイテムを身につける高校生が多いという。
「ファッションは20年で1周する、という話を聞きますが、ぼくが撮影を始めた20年前と同じファッションがまた今はやっているのは面白いですね」