具体的な制度の内容は各企業で異なるものの、長期休暇制度とキャリア形成は密接につながっているようにも見える。前出のSOMPOインスティチュート・プラスの大島さんは「これらの休暇制度の導入企業は、まとまった日数の休暇取得が従業員の成長と能力発揮、ひいては組織の力につながるとの認識がうかがえます」と話す。

組織の力になる

 実際、キャリアや人材育成の分野では、普段の環境を離れてまた戻ってくる過程で視野が広がり自身や現在の仕事への気づきを得る「越境学習」や、家庭や職場と異なる第3の居場所である「サードプレイス」での経験が、個人の自律的なキャリア形成に寄与し、新たな視点を持ち自律した個人が組織の力にもなる、と近年注目されている。

 ただ、期待される効果を生むには工夫が必要と大島さんは言う。

「現在の職場を離れて別の場に身を置く経験は、短期よりも長期の休暇の方がしやすい半面、長期休暇の取得はキャリアにマイナスとの不安を抱く人も少なくありません。導入事例にみられる補助金の支給や社会保険料の負担などの金銭的な支援のほか、休暇を経験した人が復帰後に受容・歓迎されていると感じ、必要に応じて経験を生かす機会がある組織運営が重要です」

 とはいえ、「組織」や「キャリア」のためではなく、フランスのバカンスのように個人の生き方や余暇の充実のために長期休暇を取るのは、日本ではまだまだ後ろめたさがつきまとうのが現実。だが大島さんは、組織やキャリアに一見して役立つ目的の休暇でなくても、やってみたかったことを休暇で経験して戻ってきた従業員は組織にポジティブな影響を及ぼす存在になり得る、と唱える。

「私生活の充実が仕事にプラスの影響を及ぼす『スピルオーバー』(流出効果)という概念が研究で明らかになっています。また、個人として尊重されることはエンゲージメント(組織に対する愛着)へのプラスの効果が期待されます。さらに、現在の延長や予測可能な近い分野ではなく、遠く離れた分野の知識や経験を取り込むことはイノベーションの創出にもつながります」

 個人は就労期間の長期化と様々なライフイベントや社会変化に対応した働き方、キャリア形成が求められる一方、企業は人手不足のもとでの人材確保やイノベーション、生産性向上の必要性に直面し、多様な個人の成長や能力発揮が欠かせない。そんな今こそ、働く人と企業の双方がウィンウィンとなる休み方へのアップデートが求められている。(編集部・渡辺豪)

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