俺の転機は

 俺の転機になったのは馬場&鶴田組対天龍&ビル・ロビンソン戦だ。俺はこの試合が終わった後に、またアメリカに行くことが決まっていたから、開き直って猪木さんの必殺技だった延髄斬りをやったりしたら、思いがけず客に好評だった。どうすれば客が喜ぶのかちょっとわかったんだ。

 それで調子よくアメリカ行きも中止にしてね(笑)。それから客の気持ちと自分の心でキャッチボールすること、こうしたら客はこう思うから、裏をかいたら面白いとか、そんなことを考えるのが楽しくなってきた。ようやく、そこまで考えないと客は盛り上がらないんだということも分かったんだ。

 それから移動中のバスの中でも次の試合のことをずっと考える日々が続いて、あるとき馬場さんがバスの中で若手に「天龍を見てみろ。バスの中でも試合の展開のことをずっと考えている。お前らも見習え!」と言ったんだ。これを聞いて初めて「ジャイアント馬場に勝った!」と思ったね!

 それが嬉しくて、興奮して、サービスエリアでカレーライスを食ったのを覚えている。興奮するとなぜかカレーが食べたくなるんだ(笑)。そうなると考えることがますます楽しくなって、それが阿修羅・原との天龍革命でバーンと爆発したんだ。上手くいかないとき、自分の心の中では「伏すこと久しきは飛ぶこと必ず高し」って言葉をいつも思っていて、それが花開いた瞬間だったね。

 あとプロレスで教えられたことといえば、外国人レスラーから殊更言われたのが将来のために「金を残せ」だ。スタン・ハンセンとブルーザー・ブロディなんか、わざわざレフェリーを通して「Save Money」って言ってくるほど、俺の金の使い方がよほど目に余ったんだろう。

 二人にはなにかにつけて「ちゃんと金を残しておけ」と言われたけど、言われれば言われるほど反発して使っちゃうのが俺だからね(笑)。ハンセンとブロディは「居酒屋の『村さ来』が安くて、うまくて、最高だ」って喜んでいるから、俺とは金銭感覚が合わないんだよ!

 ホーク・ウォリアーにも「どうやったら金が貯まるんだ?」って聞いたら「稼いだ以上に使わなければ残る」だって。今思えば、正しいのはハンセンたちだったんだとよくわかるよ。ホークの言ったこともね(笑)。

 プロレスの後輩に対しては、俺自身とっつきにくい妙な壁を作っていたこともあって、教えたことっていうのは特にはない。でもその一方で、心配りはしてきたつもりだ。さっきも言った通りだけど、プロレスラーは下の者に金を使わないから、俺がどうにかしなきゃと、若いやつに金を使って、今思えばバカな正義感があっただけかもしれないけど。

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