プロレスは相撲のように明確な番付で示されるわけではないけど、メーンをどれだけ張っているか、ファンの人気があるかで否応なしに番付が見えるんだ。選手はみんなわかっているよ。
カブキさんだって、俺のことをずっと「源ちゃん」と呼んでいたけど、あるときから「大将」としか呼ばれなくなった。プロレスの大先輩のカブキさんが「大将」って呼ぶんだよ。そういう線引きをしっかりしてくれたのは有難いよね。
カブキさんからの教えは大きい
でもプロレスではカブキさんから教わったことが大きいし、たくさんある。特にプロレスに転向して芽が出なかった5年間は、試合が終わった後にいつも「どうしたら上手くなるんですかね?」って悩みを話すと、カブキさんは「5~6年で上手くなったら誰も苦労しないよ」って、いつもそういって慰めてくれたことに救われた。
俺が悩んでいる一方で、ジャンボはプロレスに入って3ヵ月で全部クリアしている。俺は相撲で幕内までいっているのにどうやってもうんともすんともいかなくて、かなりショックだった。
上手くなることを優先しようとしていた俺に、カブキさんはそうじゃないよと教えてくれていたんだけど、ジャンボみたいにきれいにこなしてやろう、テリー・ファンクみたいに客ウケすることをやろうって、気ばかり焦っていたんだよね。
相撲は勝てば拍手をもらえるけど、プロレスではどうしたら客に拍手がもらえて評価されるのかわからず、ドツボにはまってしまった。俺の練習や試合を見た渕正信や大仁田厚には「どうしようもないな、木偶の棒の天龍は」って言われたりね。
そんな状態のときに馬場さんからは「お前が十両とか下っ端相手に相撲をとるときはどうするんだ? ドンと胸を貸して、どっしり構えているだろう。それをリングでやればいいんだ」とよく言われたけど、それもわからなかった。
全然上手くならなくて「ジャイアント馬場、騙したな!」って、待ってましたとばかりに北を向いてたもんだ(笑)。リングで大きく手を広げるだけでいい、大きいっていうのはそれだけの価値があるってことが今はわかるんだが……。それでもカブキさんは俺に「ああしろ、こうしろ」とは言わず、いつも「いつかは上手くなる」って励まし、信じ続けてくれたんだよね。