これは、役所広司主演、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』にも通じるものだ。あの映画も主人公の青春時代を彩ったであろう音楽が同時代を過ごした観客の心をつかんで離さない。同時代性はヒットの重要ポイントである。

「不適切にも~」では時代考証がややズレているのではないか、と指摘する声もあるが、それも作り手のミスではなく、話題づくり、あるいは、何かの伏線ではないかという見方もある。

宮藤の世界観を的確に体現する阿部サダヲ

3:主人公の阿部サダヲの圧倒的魅力とかわいすぎる河合優実

 阿部は、脚本家の宮藤官九郎とは同じ劇団大人計画の劇団員同士。グループ魂というバンドもやっている。宮藤の書いた大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019年 NHK)でも主役を務め(中村勘九郎とW主演)、激しい熱量と速度のある演技によって、宮藤の世界観を最も的確に体現する。超人的なパワーと表現力と同時にかわいげがあるのも人気の所以だ。

 小川の娘役の河合優実は、主として映画で注目され、映画の新人賞をたくさん獲っている、演技派若手俳優。今回、まさかこれほど、80年代のヤンキー女子高生が似合うとは。80年代の女の子の純情可憐な雰囲気を見事に再現している。

4:宮藤官九郎節が冴える

 本人役で出た八嶋智人が、ビジネスクラスではなくエコノミーが似合う俳優という表現が、本人には悪いが、なんとなくわかる気がする。そういう独特の視点が随所にある。

 また、その八嶋が劇中で告知する公演が、実際に公演中の演劇であるという遊び心。それも、どこにでも「しれっと潜り込む」俳優というセリフと、しれっとほんとの告知を潜り込ませているという状況と重なる巧さ。こんな感じで全編、密度が濃い。

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