普通に行われている

 こうした人格攻撃や罵詈雑言を続けた取り調べには、検察OBからも疑問の声が上がる。元検察官で『元検事が明かす「口の割らせ方」』(小学館新書)の著作がある大澤孝征(たかゆき)弁護士はこう話す。

「上手な取り調べをしているとは思えません。人格否定をする検察官に被疑者は良い感じを持たず、かえって態度を頑(かたく)なにするだけです。私が検察教官をしていたときにも、取り調べで相手を抑えつけることは逆効果だから絶対やめなさいと指導していました」

 黙秘をする被疑者にもその権利を認めることが大切だと言う。

「黙秘をしているのなら、『権利だから話さなくても良いけどマイナス面もある。言い分があったら話したほうがいいんじゃないのかい』と問いかけ、あとは徹底して事件の証拠を調べた上で本当のことを話してくれと説得する。すると黙秘から転じて話してくれることもありました。頭ごなしにしゃべらせるのは拙劣(せつれつ)です」

 そもそも、黙秘をした被疑者の人格を傷つけるような検察官の取り調べはよく行われているのか。江口氏の弁護団の一人、高野傑(すぐる)弁護士は「珍しくない」と話す。

「取り調べでこうしたことは普通に行われています。検察官の多くはこの動画を見て何が悪いのかと思っているはず。それが大きな問題なのです」

 法務省に、黙秘権を行使した江口氏に検察官が長時間にわたり取り調べを行ったことの是非を尋ねると、一般論としてこう答えた。

「黙秘権を行使している被疑者への説得を取り調べの場で行うことはありますが、過去の判例を見ても身柄を拘束されている被疑者は取り調べを受ける義務があるとしている。このことからも、説得が直ちに違法になるとは考えていません」(刑事局)

冤罪を生みかねない

 だが、強引な取り調べが冤罪(えんざい)を生みかねないのも事実だ。21年に業務上横領罪に問われた不動産会社社長に大阪地裁が無罪を言い渡した「プレサンス事件」の判決では、担当検察官の取り調べを「必要以上に強く責任を感じさせて、その責任を免れようとして真実とは異なる供述に及ぶ動機を生じさせかねない」と指摘し、行き過ぎた取り調べに警鐘を鳴らした。

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