江口大和違法取調べ国賠訴訟弁護団がYouTubeで公開した動画の一場面。もともとは検察官による取り調べの録音・録画映像の一部として、2024年1月18日に法廷で再生された約13分の動画

 黙秘権は憲法と刑事訴訟法で保障された被疑者の権利だ。だが、黙秘権を行使した江口氏にその後も取り調べは続けられ、21日間、56時間超に及んだ。その間に担当検察官は人格を否定し、怒鳴るなどを続けた。このときの取り調べの様子は1月18日の本人尋問の際に法廷で再生され、その後、弁護団が13分の動画を動画共有サイトに公開。

 相手をばかにするような言葉を使い、江口氏の能力や人格を否定するような言葉も次々に飛びだした。

〈ガキだよね。あなたってなんかね。子どもなんだよ。子どもが大きくなっちゃったみたいなね〉〈僕ちゃん強くないし。弁護士として。だからもう資格は諦めてください。整理つけてくださいよ〉

事件と関係ないことも

 検察官が声を荒らげる場面も少なからずあった。取り調べ中に緊張した江口氏がトイレに行って戻ってくると、こうまくし立てたのだ。

〈取り調べ中断してすいませんでしたとかいうんじゃねえの普通。子どもじゃないんだから。あんた被疑者なんだよ。犯罪の〉

 別の場面ではこう恫喝(どうかつ)した。

〈弁護士全体の品位を貶(おとし)めるようなことになってしまったと、(公判では)そういうふうに泣きながらいうしかねえんだよ〉

 これ以外にも〈どうやったらこんな弁護士ができ上がるんだ〉と司法修習生時代の教育を非難して担当教官に話を聞きに行くと言うなど、関係者を引き合いに出して江口氏を不安にする取り調べも行われた。中学時代の成績を調べて理系の成績をあげつらい、〈だから論理性がずれている〉とさげすむなど、事件とはまるで関係ないことも執拗(しつよう)に言われた。

 江口氏によると、公開された動画以外にも検察官が声を荒らげたり、黙秘をやめさせようとするために説得の域を超えた発言をすることはあったと言う。

「検察官は『黙秘して争っていると保釈なんて半年や1年はできず、そうなれば小さい子どもがいるあなたの家庭は経済的に破綻する。このまま突っぱねるのは父親として夫として無責任だ』と責任と不安をあおりだしたのです。実家の両親に警察署への同行を求めて取り調べをした様子も事細かに伝えてくる。そこまでやるのかと思いました」

 動画では江口氏は冷静に黙秘を続けているように見えるが、内心は穏やかではなかった。

「かなり焦ったり、腹を立てたり、冷や汗をかいたり、傷ついたりをしょっちゅうしていました。勾留されていると自分で得られる情報は限られ、精神的な余裕もありません。そんな状態で連日、長いときには1日5時間を超える取り調べを受け、人格を繰り返し否定される。サンドバッグで打たれ続けるようにダメージが溜(た)まっていきました」

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