鹿児島を中心に九州で栽培されている「黄金千貫」という品種が、芋焼酎の材料に使われるという説明を聞いた陛下は、矢羽田さんにこう聞いた。
「黄金千貫は、焼酎以外に何になるのですか」
天皇陛下といえば、若いころから「お酒がお好き」。大学を卒業して間もない時期に、都内の仏料理店「シェ松尾」に何人かの同窓生と集まったことがある。
当時の支配人は、
「シャンパンに始まって白ワイン、赤ワイン、最後にコニャックのマーテル・コルドンブルーを皆さまで1本空けられましたが、まったく乱れることはありませんでした」
と、酒豪ぶりを振り返っていた。
優しい甘みを持つ黄金千貫は、サツマイモを短冊状に切って揚げたお菓子「芋けんぴ」などにも使われる。そう聞いた陛下は、「なるほど」といった表情でうなずいたという。
「焼き芋にするとすごくおいしい」
矢羽田さんによると、天皇皇后両陛下の同社訪問が正式に決まったのは今年7月。その後、県庁の担当者との打ち合わせのほかに、警察や消防が何度も入って警備のためのやりとりが続いた。
「想像以上に大変でした」
矢羽田さんは苦笑するが、同時に宮内庁サイドの柔軟な対応に驚いたという。
おふたりとやりとりするのは当初、矢羽田さんのみの予定だった。しかし、会社を支えてきた会長や若手従業員とも話をする場を設けてほしいと県を通じて希望を伝えた。
両陛下をはじめ、皇族方の公務の日程は分刻みで固められる。過密なスケジュールのため、5~10分の時間延長も厳しいことが少なくない。
だが、矢羽田さんの希望に、宮内庁サイドは予定を調整し、おふたりと会話をする場面を設定してくれたという。